昔、あるところに作太とおかじという夫婦が住んでいた。亭主の作太は根っからの怠け者で、二人の暮らしは一向に楽にならなかった。
そんなある日、女房のおかじが寺の和尚から「果報は寝て待て」という言葉を聞きかじってくる。それを聞いた作太は、明くる日から一日中何もせずに寝て過ごすようになった。始めのうちはあまり気にせず一人で渋々働いていたおかじも、一年経ち、二年経つうちに、段々腹が立ってきて、和尚のところへ文句を言いに行った。ところが和尚はニコニコと「果報が来るよう仏さんに頼んでやろう」と言うばかり。とうとうアホらしくなっておかじも働くのを止めてしまった。
それから一年程経ったある夜のこと、壊れかけた天井窓から覗いた月を見て、作太が飛び起きた。なんと月で兎が餅をついているのが見えるではないか。おかじをたたき起こして調べたが、作太の家の天井窓から見なければ、決して兎の餅つきは見えなかった。
噂はあっという間に村中に知れ渡り、やがて「作太の家の天井窓から月の兎の餅つきを見た者は果報者になる」などと話が変わっていくに従って、大勢の人間が作太の家にやってきては、お礼の金をおいていくようになった。
こうして大金持ちになった作太とおかじは、もっと大勢に見せられるようにと沢山の天井窓を付けた大きな家に建て替えた。ところが、どういう訳かそこからは二度と兎の餅つきを拝むことができなかった。屋敷は見る間に荒れていき、困った二人は和尚を訪ねた。和尚は相変わらずニコニコと、二人に「人間欲をかくと果報者が阿呆者になる。」と諭すのだった。
(引用:狢工房サイト)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 垣内稔(未来社刊)より |
出典詳細 | 安芸・備後の民話 第二集(日本の民話23),垣内稔,未来社,1959年11月30日,原題「果報は寝て待て」,採録地「山県郡」,採録地「村上フイノ、村上とき」 |
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