昔ある漁村にひとりの若い海女がいた。その漁場には巨大なアワビがいて、そのアワビは海の守神だから決して傷つけたり、ましてや触ることも禁じられていた。もし触ったら海は嵐になると長い間恐れられてきたのだった。
そんなある嵐の夜、海女の家に男が訪ねて来た。その男は以前からその海女と恋仲にあったのだ。そして2人は一晩愛しあった。明け方近くなり、男は漁のため海へ出ていった。
女が「今度はいつ会える?」と尋ねると男は「またシケ(嵐)になったらな!」と答えた。女はその言葉が忘れられず、嵐になれば男に会えると信じ、どうすれば嵐になるか考えた。
そして思い出したのがあの大アワビのことだった。女は戸惑ったが、男に会いたい一心でその大アワビに小さな貝殻をぶつけて戻ってきた。もちろん誰にも秘密で。するとすぐに空が曇りだし、瞬く間に大嵐になった。そして女のもくろみ通り男が訪ねてきたのだ。そして2人はまた共に夜を過ごしたのだった。
しかし朝になるとまた男は漁に出ていってしまった。女はその度に大アワビに貝殻をぶつけて嵐を呼び起こした。そんなことが何度も続いたため、村人は誰かがあの大アワビを怒らせているのではないかと疑うようになった。しかし女のことは誰も気付かなかった。
そしてある日、また女は大アワビに貝殻をぶつけに行った。しかしその日は貝殻を取ってくるのを忘れ、女はついに持っていた小刀でアワビを傷つけ始めた。するとアワビは突然大きく空気を吹き上げ、女は浜まで吹き飛ばされてしまった。気がつくと海は大荒れで、女はこれでまた男に会えると確信した。
しかし男はその時すでに漁に出ていて、未だに戻っていないという。それを聴いた女は村人が止めるのも聞かず船を漕ぎ出して大荒れの海へ出ていった。そして沖まで来てみると男がそこにいた。男は浜に戻れと繰り返すが、女の耳には届いていなかった。そして男の手まであと少しで届くというところで、海から突然巨大な竜巻きが登り2人とも船から投げ出されてしまった。
その後嵐は去ったが、2人の姿を見たものは誰もいなかったという。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 辺見じゅん(角川書店刊)より |
出典詳細 | 残酷の悲劇(日本の民話10),辺見じゅん=清水真弓,角川書店,1973年6年25日,原題「海女と大あわび」,伝承地「千葉県」 |
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場所について | 千葉の御宿の岩和田 |
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