むかしむかし、ある貧しい村に古い寺があって、その境内に大きな杉の木が立っておった。ある年、この寺を新しく建て直そうという話になり村人達は集まって相談した。そうして、境内の大杉を切り倒し村人達の手で寺を建てようという案が出たそうじゃ。
村人のうち「たへい」という男は、あの大杉には天狗が棲んでおるから切ったら罰があたると言い、寺の裏山の木を切って使うことを提案したが、「きちぞう」や大方の村人達は境内の大杉を切り倒すことに賛成し、早速翌日から作業にかかることになったそうじゃ。じゃが、心配した「たへい」は一人、大杉の下に鏡餅とお神酒をお供えして祟りが起きないよう祈った。
翌日、村人達が大杉を切ろうとすると、風もないのに大杉の木の枝がざわざわと騒いだ。村人達は不安になりながらも大杉の幹にマサカリを打ち込み、ガンドウで挽こうとしたところ、突然強い風が吹いてきて大杉は大きな音を立てて倒れたそうじゃ。こうして、村人達は切り倒した大杉を挽いて、お寺を建てる材木の準備をした。
その夜、「きちぞう」は大杉のカンナ屑を持ち帰り、家で焚き物として使っておった。すると急に強い風が吹き始め、カンナ屑に囲炉裏の火が燃え移ったかと思うと、あっという間に「きちぞう」の家全体が燃え上がった。
火は次々に燃え広がり、たちまち村全体を包む大火事になった。村人達はその炎の中、大きな天狗が羽団扇で強風を起こし、村中を焼き尽くす姿を見たそうな。不思議なことに、この火事で「たへい」の家だけは助かり、大杉から作った材木や、それを手伝った村人達の家は、みんな灰になってしもうたそうじゃ。
こののち、村人達は大杉が立っていた所に新しい杉を植えて、なんとか天狗様の怒りを鎮めようとした。そうして、新しいお寺は裏山から木を切り出して建てたそうな。
今では、植えた杉の木も大木となり、村人たちは「天狗杉」と呼んで大切に守っておるということじゃ。
(投稿者:ニャコディ 投稿日時 2014/6/1 17:42)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 石崎直義(未来社刊)より |
出典詳細 | 越中の民話 第二集(日本の民話55),石崎直義,未来社,1974年09月30日,原題「天狗杉のたたり」,採録地「西砺波郡福光町」,話者「石崎しげ」 |
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