昔、ある島にノロマののろ助と馬鹿にされている若者がいた。この若者は、いつまでたっても一人前の漁師になれなかったので、親方に頼んでやっとかしきにしてもらった。かしきとは、船で食事の世話をする炊事番のことだ。
漁師たちは、一人前になれない若者を相変わらず馬鹿にしていたが、それでもこのかしきの若者は嫌な顔一つせず、一所懸命働いた。またそればかりでなく、心のやさしい若者は、残飯が出ると「おいお(お魚)、お上がり。」と言いながら残飯を海にまき、魚に与えるのだった。
それから何年か経ったある日の晩。もう皆が寝静まった後、食事の後片づけを終えたかしきが、床に就こうとした時だった。かしきはおかしな事に気づいたのだ。海の上にも関わらず、船が全く揺れていない。
不思議に思ったかしきは、様子を見に甲板に出てみた。すると何としたことか、そこに海はなく、見渡す限り一面の砂浜が広がっていたのだ。砂浜は、月の光に照らされて黄金色に輝き、なんとも美しい光景だ。かしきは船から降りて、この美しい砂を桶にいれて船に持ち帰った。
そして翌朝起きて見れば、これまた不思議なことに砂浜など何処にもなく、船はいつものように海の上をはしっている。かしきは、漁師たちに昨晩の出来事を話してみたが、そんな話を誰も信じるはずもない。それではと、かしきはその証拠に桶に入れた砂を見せることにした。
そして桶を見に船底に下りてみれば、そこにあったのは桶いっぱいの砂金だった。これを見た親方はこう言った。「かしきはいつも“おいお、お上がり”と言って魚に食べ物を与えてきた。竜宮の神様がそれをお喜びになったのだろう。」
こうして砂金は全てかしきの物となり、このかしきは大変な長者になったそうだ。しかし長者になった後も、このかしきは決して驕ることなく、島のために大きな船を買い、幸せを皆と分かち合ったということだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-10-17 20:32)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | (表記なし) |
備考 | 出典元不明ですが、初期版のリメイク版である点をふまえ「愛知」としています。 |
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