昔々、美濃の国の土岐(とき)という所に正直者の焼き物屋夫婦が住んでいた。
ある時、おっとうは浅野館(あさのやかた)の嫁入り道具の器を焼くという大仕事を請負った。おっとうは娘のおしのに、この仕事を無事にやり終えたら赤いべべ(着物)を買ってやると約束する。そしておっとうとおっかあは、それこそ寝る間も惜しんで働いた。器は天日に干され、釉(ゆう)が塗られ、窯に入れられる。
ところが窯焚きが始まって三日三晩がたち、あと一日という朝のこと、生来からだがあまり丈夫でないおっとうは、ここ数ヶ月の無理がたたり、高熱を出して倒れてしまう。窯焚きはこれからが一番難しいところ。仕方なくおっかあは、見よう見まねでおっとうがやっていたように窯に割り木をくべた。そしておしのは、窯の焚き口まで割り木を運んだ。おしのは夜になる頃にはヘトヘトに疲れてしまい、いつしか窯の前で眠ってしまう。
おっかあは、一人で夜中も割り木をくべている。ところが、夜中におっかあの悲鳴でおしのは目を覚ます。見ると、窯の色見穴(いろみあな)からこれまで見たこともないような真っ黒な煙がモクモク出ていた。おっかあが、一生懸命のあまり割り木を入れすぎ、窯の火力が落ちてしまったのだ。おっかあは途方にくれてその場にしゃがみこんでしまう。
これを見たおしのは、窯の神様の祭壇まで走って行き、「窯の神様、おっかあを助けて下さい。」と一心に祈った。するとそこに一陣の風が吹き、木の葉が舞い上がった。木の葉は緑色の美しい童子に変わり、窯へ向かって飛んでいく。火童子(ひわらし)はお不動様の使いと言われ、神様を敬う正直者の窯へやって来て、焼き物がうまく出来るよう助けると言われている。火童子が窯の中に入り火打ち石を打つと、火童子の髪は炎となって燃え上がった。そして色見穴は再び真っ赤に輝き始めた。おしのが色見穴を覗くと、火童子は楽しそうにクルクルと踊っている。そして、火童子が踊るたび、焼き物はいい具合に焼きあがっていった。おしのは、一夜に三千里を走る火童子が、秋葉の山から来てくれたと思うのであった。
窯出しの日の朝には、おっとうも起き上がれるようになった。澄んだ緑釉(りょくゆう)が日に輝いて、それはよい窯出しだったということだ。おしのがおっとうにだけ火童子のことを話すと、おっとうは嬉しそうに何度も頷いていた。
(投稿者: 良い子 投稿日時 2011-5-16 15:45)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 岐阜県 |
場所について | 岐阜県土岐市 |
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