むかしむかし、山の中の竹藪に囲まれた一軒家にお爺さんとお婆さんがおりました。二人とも年を取っているうえに、その年は長雨が続いて、とうとう家には食べる物がなくなってしまいました。
そこで、久しぶりに晴れ間がのぞいたある日、お爺さんは笠を売って米を買おうと町へ出かけました。ところが、もう少しで町に着く所で土砂降りの雨が降り始めました。
お爺さんは慌てて十六羅漢様が並ぶ木陰に入りました。雨宿りをしながら、お爺さんは冷たい雨の中立っておられる十六羅漢様が気の毒に思えてきて、持っていた傘を全部、羅漢様に一つ一つかぶせてあげました。
そんな訳でお爺さんは何も買えずに家に戻ってきたのでした。お婆さんはそんなお爺さんを優しく迎えました。その夜、二人が寝床に入る頃には雨も上がっておりました。
真夜中、どこからともなく葬式の鐘の音が聞こえてきました。葬式の行列はどんどん近付いてきて、家の前でぴたりと止まりました。そうして、葬式の人々は家の中に入って来て棺桶を置くと、お経を唱えながらしくしく泣き始めました。その恐ろしさに、お爺さんとお婆さんは部屋の隅で耳をふさいで震えていました。
やがてお経は止み、人々は立ちあがると来た時のように黙ったまま家の外に出て行きました。家の中には棺桶とお爺さんとお婆さんだけが残されました。そうして、どうしたことか、お爺さんが作って十六羅漢様に差し上げた笠が一つ、戸口の前に落ちておりました。すると突然、棺桶が光り輝き、中からたくさんの小判があふれ出してきたのです。
夜が明けるのを待ってお爺さんとお婆さんは十六羅漢様の所に行ってみました。すると思った通り、一つだけ数が足りず、最後の羅漢様には笠がありませんでした。昨夜の小判は笠のお礼にと十六羅漢様が下さったものなのでした。
それからのお爺さんとお婆さんは毎日羅漢様へのお参りをかかさず、何不自由なく幸せに暮らしたそうです。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-10-4 23:17 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 土屋北彦(未来社刊)より |
出典詳細 | 大分の民話 第一集(日本の民話49),土屋北彦,未来社,1972年08月15日,原題「笠羅漢」,採録地「杵築市」,話者「重安あさえ」 |
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