周防の国の太陽寺に、天徳曇貞(てんとくどんてい)というえらい坊様がおった。
村の人々からは「どんてん様」と呼ばれて親しまれておった。太陽寺は寺の境内のどこを掘っても水が出ず、水は雨水をためるか、遠い谷川まで水を汲みに行くしかなかった。
ある日の事、どんてん様が小坊主さんたちと本堂でお経を読んでいると、空から雷様が落ちてきた。雷様は「お騒がせして大変申し訳ない」と丁重に詫びると、寺の境内の一本杉に登り、そこから天に帰ろうとした。
雷様が杉の木のてっぺんまでついたときに、突然どんてん様は雷様に対して「おつち」と呼びかけた。人間に名前を付けられた雷様は、天に帰ることができないのである。こうしておつちは、寺で小坊主さんたちと一緒に修行することになった。
毎日谷川まで水を汲みに行くのが、おつちの主な仕事になった。寺での生活に慣れないのか、おつちはやせていったが、それでも愚痴ひとつこぼすことはなかった。
ある夜の事、どんてん様の夢枕におつちの息子が現れた。父親が落ちたのは自分のせいで、父親を返してほしいと涙ながらに訴えるのであった。同じ夜、おつちも夢の中で、息子から「早く天に帰ってきてほしい」と訴えられた。
翌日、どんてん様はおつちに「天に帰りたいか?」と尋ねた。おつちは「私はまだ修行の最中です。修行を途中で投げ出すわけにはいきません」と答えた。おつちの答えに感心したどんてん様は、おつちに天に帰るように言った。
おつちは、夢の中の息子から言われた通り、杉の木ではなく寺の境内の岩に手をかけて、天に帰って行った。するとその岩からは水があふれ出し、それから太陽寺では水に困るようなことはなくなった。
この岩からあふれ出した水は「雷水」と呼ばれ、太陽寺では大切にされたという。
(投稿者: カケス 投稿日時 2013-11-3 22:05 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 周防・長門の民話 第一集(日本の民話29),松岡利夫,未来社,1960年09月14日,原題「落ちた雷」,採録地「熊毛郡」,話者「林一郎、磯永充能、弘中数実」 |
場所について | 周防国の太陽寺 |
このお話の評価 | 8.00 (投票数 4) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧