昔々、博多の大浜という所に、市右衛門(いちうえもん)という漁師が住んでおりました。
この男、朝昼晩に酒を飲むのが何よりも楽しみという大の酒好きで、漁に出た際も釣れようが釣れまいが関係なく、船でも飲んでおりました。
ある夏の日、夜釣りに出かけた市右衛門は、島影の魚が釣れそうな所に船を進め、釣り糸を垂らすと、一杯やりながら魚を待ちました。
ところが、その夜はなぜか全く釣れません。でも、そんな事はあまり気にせず、星空を眺めながら、さらに酒を飲むうちにすっかり良い気分になり、船底に横になっていた時のことでした。一匹の河童が徳利に手を伸ばして来るではありませんか。
慌てて跳ね起きた市右衛門に、河童は酒を飲ませて欲しいと頼みますが、怒った市右衛門の剣幕に恐れをなして、仕方なく海の中へ帰ってしまいました。怒りに任せて酒を飲み続けた市右衛門は、すっかり酔いがまわり、とうとう横になって眠ってしまいました。
夜が明けると、船は島影を離れ、ゆらゆらと漂っておりました。市右衛門が目を覚ましてみると、なんと、船底にさっきの河童が空の徳利を抱いて寝ているではありませんか。市右衛門の一喝で目覚めた河童に、酒を買って返せと迫りますが、河童は『気持ち良さそうなあなたを見ていると我慢できなくなり、つい飲んでしまいました』と謝るばかり。
酒飲みの気持ちは誰でも同じで、怒るに怒れなくなった市右衛門に河童は、『今後漁に出るたびに船に魚を放り込みましょう』と言って、やっと許してもらいました。
それからは、市右衛門が漁に出ると、天気が良かろうが時化ようが、河童のおかげでいつも大漁続きだったということです。そして、漁の度に河童もお酒をわけてもらったそうです。
(投稿者:子安神社 投稿日時 2015/1/23 22:19)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 加来宣幸(未来社刊)より |
出典詳細 | 福岡の民話 第二集(日本の民話52),加来宣幸,未来社,1974年04月25日,原題「市右衛門と河童」,採録地「大浜」,話者「高良竹美」 |
場所について | 福岡市博多区大博町(大浜地区:地図は適当) |
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