昔、今の岡山県と鳥取県の県境にあたる所に大きな峠があった。
その峠には化け物が出るとの噂があり、ある侍のお供として鳥取方面に向かう家来たちは怖がって、引き返そうと言う。しかし侍は物怖じせず先へ進む。ふと見ると前には旅の商人が歩いており、侍は家来たちを安心させる。ところが・・・その商人の目の前に大きな大きな琴が横たわっており、どこからか「この峠を越えたいならこの琴を弾け」と恐ろしい声がする。
商人が琴を弾こうと手を差し出すと、琴の糸がねばねばと手にまとわりついた。「手で弾けないなら足で弾け」と言われ今度は足もつかまってしまい、とうとう人食い蜘蛛に食べられてしまった。それをみた一行は一目散に逃げ帰り、だんご屋でその化け物の話をしていると、詳しく話を聞かせてくれという坊様に出会う。
後日夜、うす暗い人形峠のあの大きな琴の近くに若い女性が座っている。するとまたあの人食い蜘蛛が「琴を弾け」とささやく。女は「疲れているので」「眠いので」と断っているうちに人食い蜘蛛が怒り狂い、琴の糸で女を捕えてしまう。そしていざ食らいつこうとしたそのとき、坊様が投げた錫杖が蜘蛛の脳天に突き刺さり、やがて息絶えてしまう。坊様は若い女性の人形を作り、声色を変えて人食い蜘蛛をおびきよせたのだ。
そうしてその峠は、みなが安心して通れるようになった。坊様が人形を使って人食い蜘蛛を退治したことから、人形峠と呼ばれるようになった。
(投稿者: daria 投稿日時 2011-10-26 20:48 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岡山の昔ばなし(三丘社刊)より |
出典詳細 | 里の語りべ聞き書き 第06巻,川内彩友美,三丘社,1989年04月10日,原題「人形峠」 |
場所について | 人形峠 |
本の情報 | 二見書房[怪談シリーズ]第3巻_妖怪がでるぞ~(発刊日:1994年7月25日) |
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