茨城県のとある山の中、二人の若いお坊さんが道に迷い難儀していた。すでに日はとっぷり暮れていて、月明かりもなく、時折遠くから狼の遠吠えも聞こえる。
そんな中、谷をずっと下った所に明かりがある。二人は、わらにもすがる思いでこの家を訪ねた。戸を開けると、そこには白髪頭の老婆と、若くきれいな娘がいた。
老婆は疲れている二人にやさしく声をかけ、さっそく寝床を作ってくれた。その時だった。「もってえねぇ、血が出てる。」娘はすねに怪我をした一人の坊さんの傷口を見て、こうつぶやいたのだった。「ん、もってえねぇ、こんなボロ屋に坊さまに泊まっていただいて・・・」老婆はそう続け、その場を取り繕った。
さて、皆が寝静まって夜も更けたころ、一人の坊さんがピチャピチャという物音に目を覚ました。隣を見てみれば、何と老婆が怪我をした坊さんの足の傷口をうまそうに舐めていたのだ!!
二人は恐ろしくなり、小便を口実に家から逃げ出した。するとどうだろう、老婆は「アオ~ン」と一声叫び、狼の大群を呼び寄せた。老婆と娘は岩を軽々と飛び越え、狼の群れと一緒にすさまじい速さで二人を追いかけて来る。
必死に逃げる二人だったが、とうとう崖っぷちにまで追い詰められてしまった。だが幸いなことに、崖っぷちの松の大木から蔓(つる)が伸びており、二人はこの蔓をよじ登って松の枝の上に逃れた。
追ってきた老婆と娘は、これを見て狼たちに何かを命じた。すると狼たちは、一匹また一匹と狼の上に狼が乗って、“狼ばしご”を作ったのだ。しかし、二人が逃れた松の枝までは、今少し距離が足りない。そこで老婆は狼の上に乗ると、そこからジャンプして二人に飛びかかってきた。しかし、やはり松の枝までは届かず、老婆は悲鳴とともに深い谷に落ちていった。
次は娘が二人に襲いかかるが、今度は松の枝を飛び越してしまい、これまた谷底に消えていった。こうして、すんでの所で命びろいした二人だったが、化け物の持って生まれた業の深さを思うとき、恐怖は薄れ、深い憐みさえ感じたということだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-5-6 9:02)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 日向野徳久(未来社刊)より |
出典詳細 | 茨城の民話 第一集(日本の民話62),日向野徳久,未来社,1977年04月10日,原題「狼ばしご」,採録地「石岡市」,話者「山口京子」 |
場所について | 茨城の山の中 |
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