八丈島のある村に、観音様を信仰する信心深いおじいさんが住んでいました。おじいさんはひとり息子に死に別れたのをきっかけに、それまで住んでいた家を手放し、持ち畑に近い場所に新たに家を建てて暮らしておりました。そこは海から吹きすさぶ風が物凄い土地でした。
ある時、八丈島の上空を風の神様が猛風を吹かせながら通り過ぎました。風の神様は自身の通り道にある物は家だろうと畑だろうと構わず吹き飛ばしながら進んで行きました。おじいさんは家に引き籠ったまま、一心に観音様に「どうぞ家が吹き飛ばされませんように」と祈っておりました。
やがて風の神様はおじいさんの家の上空にやって来ました。ところが、風の神様が吹かせる風はおじいさんの家に当たると悉く跳ね返り、あべこべに風の神様を雲の上から落としてしまいました。怒った風の神様は今までよりも更に強い風をおじいさんの家に向かって浴びせかけましたが、その内根負けしておいおい泣きながら「此処は俺の通り道なのに、塞がれてしまっては海に帰れんではないか」と叫びました。
すると、突然観音様が姿を現わし、おじいさんに向かって「今までおまえの家を吹き飛ばされないように護っていたが、風の神の行き場を奪う訳にはいかぬ。家を他に移して風の神を通して差し上げよう」と言い、おじいさんの家を掌に乗せてその場を離れると、風の来ない穏やかな土地におじいさんの家を移し替えました。風の神様は観音様に礼を述べると、大慌てで海に向かって飛んで行きました。
この時おじいさんの家が移された場所を、人々は「せいずのたいら」と呼ぶようになりました。今でも八丈島では、風の神様の通り道に家を建てる事を慎むと申します。
(投稿者:熊猫堂 投稿日時 2014/1/27 0:31)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 浅沼良次(未来社刊)より |
出典詳細 | 八丈島の民話(日本の民話40),浅沼良次,未来社,1965年08月15日,原題「せいずのたいら」,採録地「中之郷」,原話「山下寿奈」 |
場所について | 中之郷(地図は適当) |
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