昔、あるところに大きな川が流れていて、その川の淵になった所に河童が住んでいた。
この河童には妻も子も居たのだが、数年前に悪い風邪が流行った時に相次いで他界していた。今は年老いた河童だが、妻子が居た頃は覇気もあって近隣の村の村人を化かしては西瓜や作物を取ったりしていた。
ところで、河童というのは自分のことを「オラ」ではなく「アラ」としか言えないという話が、この地方では有名であった。冬の寒さと家族の居ない侘しさに、妻子の命日を思い出した河童は、景気よく酒でも飲みたいと、久しぶりに人間を化かして酒を仕入れてこようと酒屋に出かけた。
小さな子どもに化けた河童が酒を買いに来ると、酒屋の主人は酒を徳利に入れながら色々と話をしてきた。ところが、その話の最中、子どもが自分のことを「アラ」と言ったのを主人は聞き逃さなかった。 これは河童が化けたものだなと悟った主人は、すんなり酒を渡す振りをして戸の前に立ちはだかるとしんばり棒を振りかざして河童に襲い掛かった。「正体は分かってるんだぞ!」
頭の皿を割られそうになり、観念した河童は平謝りに謝ると正体を明かし、やってきた事情と身の上話をした。酒屋の主人も同情し、今日はこの酒を飲んであったまれ、と許してくれた。 河童は、遠慮する主人に、どうしても代金を後で支払うから、と言い残して帰っていった。
翌朝、酒屋の主人が店を開けようとすると、店の前に立派な鯉が置いてあった。身の丈三尺近くはあろうかという大きなその鯉は、きっと河童が酒代の代わりに苦労して捕まえて届けてくれたのだろうと、酒屋の主人は納得したという。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 石崎直義(未来社刊)より |
出典詳細 | 越中の民話 第二集(日本の民話55),石崎直義,未来社,1974年09月30日,原題「酒を買いに来た河童」,採録地「西砺波郡福光町」,話者「石崎与作」 |
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