昔、ある村に大きな屋敷に住む長者どんがいた。この長者どん、立派な屋敷に住んでいるのに加え、大層なお宝を持っていた。そのお宝とは、金で出来た、まばゆいばかりの仏様であった。
ところで、この長者どんの屋敷に風呂焚きの五助という使用人がいた。五助は信心深い男で、一体の木で出来た仏様を大事にしていた。五助は食事を取る時も、まず木仏様に自分のお膳を供え、そのお下がりを頂くという日々を送っていた。
さて、そんなある年の正月。この日ばかりは無礼講で、五助たち奉公人も長者どんと一緒に、朝から祝いの宴席で騒いでいた。その席で奉公人の一人が「そろそろ、年に一度の金仏様を拝ませて下せえ」と言った。
そこで長者どんは立ち上がると、おもむろに後ろにある仏壇の扉を開けた。金仏様は光り輝き、いつ見ても見事なものだった。すると、酒と踊りに飽きた長者どんは、突然こんな事を言い出した。
「五助の木仏様と、ワシの金仏様とで、一つ相撲を取らせてみたいのじゃがどうだろう?」そして、もし木仏様が勝てば、長者の身代を全て五助に譲る。しかし、もし金仏様が勝てば、五助は一生ただ働きという条件だ。
こうして、広間では金仏様と木仏様が並べられ、相撲を取ることになった。「本当に仏様が相撲を取るのか?」、「いや、ただの正月の余興じゃよ。」奉公人たちが言い合う中、相撲は始まった。するとどうだろう、何と二体の仏様はグラグラ動きだし、本当に相撲を取り始めたのだ。
こうなってくると、木仏に味方する者、あるいは金仏に味方する者が現れ、大変な騒ぎになった。勝負はなかなか着かず大相撲になったが、最後に五助の木仏様が金仏様を押し倒した。
長者どんは皆の前で約束したので、金仏様を持って仕方なく屋敷を出て行った。一方の五助は、長者になってからも益々信心深くなり、人々から木仏長者と呼ばれるようになった。
あの時、なぜ木仏様が勝ったかというと、仏の力とは、信心する心の強さによるものだからだ。五助の木仏様は毎日信心を受けたのに対し、一方の金仏様は磨かれるばかりで信心されなかったからだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2014/11/2 16:29)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | (表記なし) |
このお話の評価 | 9.00 (投票数 5) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧