昔ある里のずっと奥の方に柿の木がある一軒の家があった。
家の中では3人の幼い兄弟達が原を空かせておっかあの帰りを待っていた。おっとうが亡くなってから子供達を抱えて、おっかの苦労は並み大抵のものではなかった。朝は子供が寝ている内から夜遅くまで、あちこちの手伝い仕事をして子供を養っていた。時々おっかあは帰り道、夜空の星を見上げては「あんた、オラ達を見守っていてくれろや」と言っていた。
子供達だけを残して仕事に出掛けなければいけないおっかあは「夕方はしっかり戸締まりをして、おっかあが声をかけるまで決して戸を開けてはいけないよ。さもないとななつ山の鬼が来るからな」と言い聞かせていた。
その日は庄屋さんの婚礼の手伝いで、たくさんの餅を作っていた。どんどんできていく餅を見ておっかあは、ひとつでもいい、子供達に食べさせてやりたいと思わずにはいられなかった。おっかあの気持ちが通じたのか、庄屋さんは手伝いに来た人達に心ばかりのお礼にと、餅をくれたのだった。おっかあは大変喜び、子供達がどんなに喜ぶだろうと想像しながら帰りの道を急いでいた。そして林のはずれに来た時のこと、突然目の前に大きな赤鬼が現れた。おっかあは腰を抜かして「餅は差し上げます、命ばかりはお助けを、わたしには子供達がいてわたしがいなくなったら生きていけません」と命乞いをしたが、赤鬼は「餅は嫌いじゃ、オラの好物は人間だ」と言った。
しばらく後、夜空に星がひとつ増えていた。その頃家では子供達が、おっかあの帰りを今か今かと待っていた。その時コトンという音がして、一番下の子がおっかあだと思い戸を開けて外に出た。だがそこには誰もいない。一番上のあんちゃんは急いで戸を閉め、鬼に食われたらどうすると下の子に言った。下の子はおっかあは帰って来ないと泣いていた。
その時外から「これこれ、おっかあだよ。開けておくれ」と声がした。だが上の子は何だかいつものおっかあの声と違う感じがしていた。外のおっかあは「窓を見てごらん、お土産の餅じゃよ」と言う。窓を見てみるとおっかあの風呂敷包みが見えた。3人の子供は安心して戸を開けた。子供達は大喜びで餅をほおばった。
おっかあを食って満腹の鬼はその様子を見ながら、明日の朝になったらどの子から食ってやろうか考えていた。上の子は下ばかり見ているおっかあを見てどうしたのかと聞いてみたが、鬼が化けたおっかあは何でもないと言う。鬼は「それより餅を食べたら早く寝なさい、おっかあもすぐに寝るで」と言い聞かせた。こうして一番下の子は、その夜鬼とも知らずいつものようにおっかあと一緒に布団に入った。だが上の子はどうも変だなと思い、つい立ての上からそっと寝ているおっかの顔を覗いてみた。
するとおっかあの口には大きな牙が生えていた。それを見た上の2人の子は驚いて、あれは鬼が化けているのだと気付き恐ろしくなった。そしてどうしようと考え、小便に行こうとして、下の子も小便に連れていった。何とか家から出ることができた子供達は、柿の木の上に隠れた。子供達が外に出たことに気付いたおっかあは外に出た。そしてあっと言う間に鬼の姿に変わり、子供達を捜しまわった。
その時柿の木の上の子供達の姿が木の下の池に写り、それを見た鬼は子供達が池の中に隠れたと思って池の水を棒でかき回した。だが子供達は出て来ない。鬼はしびれを切らして「やい出て来い。おっかあはもうオラが食ってしまったぞ」と叫んだ。それを聞いた下の子が「おっかあが食われてしもうた」と大声で泣いた。その声を聞いて柿の木の上の子供達を見付けた鬼は、柿の木を登り始めた。
子供達はもうどうしようもなくなり大声でおっかあに助けを求めた。その時、夜空に浮かぶ月がまぶしく光り始めた。そして天から鎖がガシャガシャと音を立てて下りてきた。鬼はあまりのまぶしさに何も見えなくなってしまった。鎖が柿の木まで下りてくると、子供達は急いでその鎖にしがみついた。すると鎖はゆっくりと天に登り始めた。だがその時鬼は逃がすものかと、鎖のはしを掴んだ。鎖は3人の子供と鬼がつかまったまま登っていった。鬼は何としても子供達を食ってやろうと手を伸ばした。
そしてその手があわや子供達に届こうとした時、鎖のはしがプツンと切れ、鬼はまっ逆さまに落っこちてしまった。3人の子供達はそのまま天へ登っていった。そして天に着いてみると、そこにはおっとうとおっかあが待っていた。そしておっとうとおっかあと3人の子供は5つの親子星となり、いつまでも離れることはなかったそうだ。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 未見のため不明 |
出典 | クレジット不明 |
出典詳細 | 周防・長門の民話(?松岡利夫,未来社)だと思う。採録地は吉敷郡とのこと |
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