むかしむかし、ある山奥に長い長い階段のあるお寺があった。この寺にはチン念とボク念という二人の小僧がおったが、寺の和尚さんはとってもけちんぼと言われておって、旨い食べ物を小僧達に分けてやることは決してなかったそうな。
ある夜のこと、チン念とボク念が和尚さんの部屋を覗いてみると、和尚さんはこっそり大福餅を食べておった。二人の気配に気づいた和尚さんは、「旨いものが喰いたければ知恵を働かせてみるもんじゃ。頭を使えば旨いものが食えるんじゃ。」と、誰に言うともなく教えたそうな。
ボク念はそれから、寝ても覚めてもどうやったら大福餅を食えるのかを考えた。そうしてボク念は、とうとう良い考えを思いついたのじゃった。
ある日の夕方、用事で出かけた和尚さんが汗をかきかき長い階段を登って帰って来た。和尚さんは水瓶から水を飲もうとしたが、中はからっぽじゃった。そこで和尚さんは井戸へ行き、釣瓶で水を汲んで飲もうとした。じゃが、釣瓶は動かず、井戸の中から「儂はこの井戸に住む水神様じゃ。お前は旨い大福餅を小僧達にやらんそうじゃの、だから儂もお前に水をやらん。」という声が聞こえてきた。
和尚さんはボク念の声だと見抜き、水の代わりにボク念に大福餅をやるという約束をしたそうな。ボク念は水瓶の水を空っぽにし、井戸の中に隠れて和尚さんと取引をしたのじゃった。その夜、ボク念は大福餅を腹一杯食べることができた。
それを聞いたチン念は自分も大福餅を食べようと、ボク念のやり方をそっくり真似することにした。ところが、水神様になりすましてお告げをする所で、チン念は間違えて「儂はこの寺の小僧様じゃ!」と言うてしもうた。和尚さんは自分でろくに考えもせずにボク念の真似をしたチン念を叱りとばしたそうな。
「欲しいものがあるのならば、自分で知恵を絞って手に入れなければならん。人の真似をしてはいかん。」これも和尚さんの教えじゃった。
その後、チン念もボク念も一生懸命修行を積んで立派なお坊さんになったということじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-7-6 9:14 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岡山民話の会「なんと昔があったげな」より |
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