むかーし昔。愛知県の止々馬木(どどめき)という所は、ちょっとした峠でなぁ。道は竹やぶですっかり覆われて、昼でも暗くて薄気味悪ーい道があった。
この道は、誰が通ってもピタピタピタピタ、後をつけて来るような足音が聞こえてきて、旅人は恐ろしゅうなって息を切らしながら もつれるような足取りで峠の茶屋へと辿り着いていたのじゃった。
そんな、ある日のこと、旅人達の恐ろしがる様子を見かねた村の若い者が集まって竹やぶの道で、人々を怖がらせている化け物の正体を、突き止めようと相談をしたのじゃった。そうしてその夜、選ばれた村の若者は山刀を腰にさして、1人で竹やぶの道を歩いていった。
若者が暫く歩いて、耳を澄ましてみると、ピタッ、ピタッ、ピタッと後をつけてくる足音が聞こえてくる。 若者がとっさに振り返り、後ろを照らしてみたが何の姿も見えなかった。再び真っ暗な道を歩き出すとまた後ろから、ピタピタピタピタ、足音がついてきた。そうして、その足音はどんどんどんどん、若者に近づいてくる様子じゃった・・。
そのうち、首筋に何やら生臭い息がかかるような感じがした。流石の若者も恐ろしくなって、 正体を確かめるゆとりもなく振り向きざま山刀で切りつけ、訳の分からぬまま逃げるように村まで帰ったそうな。
ところが翌朝、茶屋の前は大騒ぎになっておった。何と茶屋の前の地蔵さんが、胸の真ん中で2つに切られておったのじゃった。 驚く若者達に茶店のお婆さんが「昔、自分が小さかった頃母親が病気になり、医者を呼ぶために暗い竹やぶの道を泣きながら走っていたら、急に周りが明るくなって、後ろを見るとお地蔵様が一緒に走ってついて来て下さっていた」と語った。
そうしてその後も、竹やぶの道を通るとピタピタピタピタと後ろから足音がついて来たというが、もう誰1人として、怖がる者はいなかったそうな。 今でも、止々馬木の切られ地蔵様は、切られたまんまでぽつんと峠の上に、立っていらっしゃるということじゃ。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 小島勝彦(未来社刊)より |
出典詳細 | 尾張の民話(日本の民話66),小島勝彦,未来社,1978年05月10日,原題「止々馬木の切られ地蔵」,採録地「犬山市」,話者「沢田寛行」,採集「水野とくえ」 |
場所について | 犬山市橋爪止々馬木(地図は適当) |
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