長崎、佐世保湾の沖には小さな島がたくさん寄り集まって百はあった。
大将格で体も声も大きい松浦島や副将の年寄の桂島、おなごで器量自慢の金重島、金重島に気に入られたい若戸島など、形も大きさも色々で、島々は昼は同じ場所に黙ってじっとしていなければならないのだが、夜の間は話をしたり散歩をしたりして気楽に過ごしていた。
ある晩、人間達が酒を飲み毎晩浮かれ楽しむ様子を羨ましがった島達は連れ立って浜へ出かけることにした。人間が寝静まった頃に浜に着いた島達は、呑み屋の親父を起こして金重島が採ったたっぷりのワカメと引き換えにありったけの酒樽を手に入れるとさっそく飲めや歌えの大宴会。あちこちで飲み比べも始まった。
金重島にいいところを見せたい若戸島は近くの船に酒を次々と注ぎ込み枡代わりにして一気に飲み干したものだからとうとうひっくりかえってしまう始末。
そうこうしているうちに東の空が白み出した。
お日様が出るまでにもとの場所に戻らねば島は二度と動けなくなってしまう。呼んでも押しても起きない若戸島を仕方なく置き去りにして、島達は我先に大移動。
気がついた若戸島も慌てて後を追うが時すでに遅し、陽は昇り、浜から一里ほどのところでひとり動けなくなってしまった。そうして湾の入口にポツンと現れた小さい島は一里島と呼ばれるようになり沖合の百の島は一つ減って九十九島になったそうだ。
(投稿者: ひかる 投稿日時 2012-1-26 14:36 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 長崎のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 長崎のむかし話(各県のむかし話),長崎県小学校教育研究会国語部,日本標準,1978年09月01日,原題「一里島」,採録地「佐世保市」,話者「江口愿四朗」,再話「中嶋英治」 |
場所について | 一里島(弁天島) |
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