昔々、要蔵(ようぞう)と言う男が居りました。近所に大きな野良猫が住みついてからと言うもの、どう言う訳かここしばらくの間、酷く運が悪いのでした。
ある時、要蔵がアマゴ(サツキマス)を釣りに出かけると、飛びきり大きなアマゴが釣り針に掛かりました。夢中で釣竿を振り上げると、その拍子にアマゴは後ろの藪の中に落ちました。藪の中には大きな野兎が居て、驚いた拍子に山芋のつるに絡まってしまい、山芋を何本も地面から引きずったまま動けなくなりました。
駆け付けた要蔵は思わぬ「大漁」に大喜び。早速アマゴと野兎と山芋を縛って持ち帰ろうと茅(かや)に手をかけると、茅の茂みの中には山鳥が巣を作っていて13個の卵がありました。
その日の晩は山芋と山鳥の卵でとろろ汁を作り、アマゴと兎の肉は串焼きにして、とっておきの酒の瓶を開け、久し振りに楽しい夕食のひと時を過ごしました。
ところがその日の夜、あの野良猫がこっそりとやって来て、すり鉢の中に残っていたとろろ汁をぺろぺろと舐め始めました。
翌朝、要蔵が目を覚ますと、あの野良猫がすり鉢の中に入り込み、もぞもぞと動いています。日頃の不幸を猫の仕業と考えている要蔵は腹を立て、すり鉢に忍びよって猫を捕まえてしまいました・・・ところが、要蔵が握りしめたのは猫の尻尾ばかり。
猫はあまりにもとろろ汁が美味しいので夢中ですり鉢を舐めているうちに、舌先がすれ、頭がすれ、体がすれ、尻尾を残してみんなすれてしまったのでした。
こうして疫病神の野良猫は居なくなったのですが、居なくなったら居なくなったで、要蔵は何となく寂しさを感じたのでした。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2012-10-21 11:32 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 高知の昔ばなし(三丘社刊)より |
出典詳細 | 里の語りべ聞き書き 第06巻,川内彩友美,三丘社,1989年04月10日,原題「すりばちをなめた猫」 |
VHS情報 | VHS-BOX第5集(VHS第48巻) |
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