昔、八丈島の末吉村(すえよしむら)に、嫁入りの遅れているお島という娘がいた。
ある日、母親に勧められ三根村(みつねむら)に、縁結びをお願いに観音堂へお参りをした帰りの事、見知らぬ男に話しかけられた。「わしは三根の矢吉というもんじゃが、これを受け取ってくれ」と言い、白いたとう紙(畳紙)の包みを渡された。
家に帰り、母と包みを開けてみると、紅鼻緒のぞうりだった。この島では、紅鼻緒のぞうりを渡されるのは、結婚してくれという意味だった。
その晩、矢吉は早速お島の家にあいさつにやって来た。この島では、結婚するならば一年間、嫁となる人の家に通わなければならないという習わしがあった。その日からも、矢吉は熱心にお島の家へと通い続けた。矢吉は、畑仕事が終わるとすぐにお島の所へ来て、朝になると自宅に帰る毎日だった。
そうしているうちに、あともう少しで一年だという時に、矢吉が突然来なくなった。お島は心配になって三根村に急いだが、急に雨が降り雷が鳴りだしたので、近くの椎の木の下で雨宿りしていた。
そのころ矢吉は、村での大きな仕事を終わらせて、お島の所へ急いでいた。その途中、雨が降り出したので、お島が雨宿りしている同じ椎の木の下で休んでいた。
やがて朝になりお島が「やっと雨があがった」と呟くと、木の反対側から矢吉が驚いた様子でお島に近づいてきた。二人は同じ木の下で一晩中雨宿りをしていた事に気が付かなかったのだ。
それから二人は、無事に結婚して楽しく暮らした。あの時、二人が雨宿りしていたが、木の両端で会わずに一夜を過ごしたという事で、アズバタの木と名付けられた。今も、八丈島の末吉村と三根村の間には、大きな椎の木があるそうな。
(投稿者: KK 投稿日時 2012-10-15 14:28)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 浅沼良次(未来社刊)より |
出典詳細 | 八丈島の民話(日本の民話40),浅沼良次,未来社,1965年08月15日,原題「アズバタの木」,原話「大原正矩の八丈志より、末吉の浅沼す乃」 |
場所について | 三根と末吉の境あたりにある椎の大木(地図は適当) |
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