昔、三重県の山間に長瀬というところには沢山の猿が住んでいました。
ある雪が多く積もった冬のこと、沢山の猿達が長瀬の村に餌を求めて作物を取りに来るようになりました。村長は寒さ厳しく餌の取れない猿達を気の毒に思い、大根などを猿達のために少しだけ軒先に吊るしておいてやることにしました。村長の行動に村人達も賛同し、猿達は村人の優しい気持ちで冬を乗り越えることができました。
次の年の夏のことです。旱(ひでり)で村の田んぼは干上がる寸前に追い込まれました。村長は村人と相談した結果、みんなで谷川の水を汲み上げて田んぼに流すことにしましたが、丸一日かけて頑張っても水は田に吸い込まれるだけで、溜まることはありませんでした。
その夜のことです。おかしな音がするので村長が田んぼへ行ってみると、あの年老いた猿を筆頭に千匹とも思われる猿達が、田んぼで身震いをしています。猿達は谷川の水に体を浸し、田んぼで水を払い落とす方法で、水を入れてくれていたのです。何度も繰り返すうちに、夜明けには村の田んぼは全て水が満たされました。
翌朝、村長にそれを聞いた村人が田んぼに集まって喜びの声をあげ、村長は猿達へのお礼へと好物のじゃがいもを持って山へ登りました。しかし、そこで村長がみたものは、体を濡らしたまま傷だらけになって息絶えている何十頭もの猿達でした。
「夏とはいえ、谷川の水はさぞ冷たかったろうに、わしらの為にすまないことをした」村人達は死んだ猿達を丁寧に葬ってやりました。それから、千匹の猿の力を借りたので「せんがりの田」といい、今でも「せんがり」の地名は残っているということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-6-22 14:11 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 三重県 |
場所について | 三重県の長瀬(地図は適当) |
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