昔、近江町の岩脇山(いおぎやま)にはとても大きな岩がありました。ごつごつした普通の一枚岩でしたが、海に面してそびえ立っていました。ある時、竹生島の弁天様が雲に乗って山を通りかかり、「この岩が鏡だったら毎朝、私の姿を見ることが出来るのに。」と思いました。
そこで弁天様は岩脇山の稲荷神社様に「海辺の岩を姿見用の鏡にしたいので鏡に変えて欲しい。もし、そうしてくれたら村の漁師の妻たちを全員美人にしますから。」と頼みました。稲荷神社様は、「岩を鏡にするなんて・・・」と驚きましたが雲に乗ってせっせと岩を磨きました。
美しい鏡岩で自分の姿を映した弁天様は大喜びで「漁師たちの妻よ全員美人にな~れ」と言いました。鏡岩と弁天様のおかげで妻たちは全員美人になって漁師たちは喜びますが、妻たちは化粧やおしゃればかりに夢中になって一向に働きません。怒った漁師たちの家では夫婦喧嘩が絶えなくなり、ついには離婚する家まで出てしまいました。稲荷神社様は困りましたが弁天様に何も言えませんでした。
そして村では困ったことがもう一つ。鏡岩があんまりピカピカ輝くので、魚が寄りつかず不漁になってしまいました。「くそー、魚が捕れなくなったのはあの『鏡岩』じゃ!!」怒った村人たちは夜中に火を熾して岩を黒く燻してしまいました。翌朝、真っ黒になった岩を見た弁天様は怒って「みんな元の顔にな~~れ!」と妻たちの顔を元に戻してしまいました。
しかし、元に戻った妻たちは働き出したので漁師たちは大喜び。離婚した妻たちも戻ってきました。「美しい女はもういい。働いてくれる元のかかあがええ!!」と漁師たちは再び夫婦円満になって幸せに暮らしました。そして弁天様は島に帰ってしまい、もう山には現れなかったそうです。こうして、今の鏡岩は黒く燻されたまま光っていないのです。
(投稿者: のんの 投稿日時 2012-2-16 0:35 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 滋賀県 |
場所について | 岩脇山(いおぎやま)の稲荷神社 |
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