No.0109
せんにんみかん
仙人みかん

放送回:0066-A  放送日:1977年01月08日(昭和52年01月08日)
演出:樋口雅一  文芸:沖島勲  美術:青木稔  作画:シンエイ動画
要調査 / 静岡県 ) 16756hit
あらすじ

むかしから、内浦や西浦はみかんの産地として知られていました。その西浦木負(にしうらきしょう)に、広いみかん山を持つひとりの男がありました。みかんの木は、実を沢山つける年と、つけない年があり、それぞれ成り年、不作の年というのでした。

ある年のこと、どのみかん山も当たり年で、枝もたわわに実をびっしりとつけて、折れそうに垂れ下がっていました。どうしたことか、当たり年だというのに、みかんが、なんにもつかない山がひとつだけありました。男は不思議に思い、いく度となく山を見て廻るのでしたが、どうしても原因がわかりませんでした。病気も虫もついていないのに、実が一つもつかないなんてことは、今まで一度だって無かったのです。

(何百本もある木に一つぐらいなっていてもよさそうなものだ)と思いながら、丁寧に下枝を調べていくと、みかんの葉の色にまぎれている一つの大きな実を、ようやく探し出しました。
「たった一つだけあったぞ。」
と男はつぶやきました.一つだけ付けておいても仕方がないので、もぎ捨てようかとも思いましたが、それでもどんな実になるか試そうと残すことにしました。

男は山に出かける度に、一つのみかんが気にかかり、見に行くと、その度にどんどん大きくなっているので、楽しみになりました。
「へんてこなみかんじゃのう。」と男はいいながら、人の頭ほどにもなったみかんを、ひそかに見守りました。そろそろ色づきはじめ、取って食べられる頃になりましたが、男の好奇心もふくらみ、どれだけ大きくなるか試してみようと思うようになりました。枝は実の重さでだんだん下がり、とうとう地面についてしまいました。それでも、実はとまる様子もなく、ずんずん大きくなって、ついにひとかかえほどになってしまいました。

もうこのへんでよかろうと、はさみをもって山に出かけた男は、熟したみかんを指先で、コツコツたたいてみました。
すると中から声がして、「まて、まて、」というのでした。おかしなこともあったものだと、また、たたいてみました。すると、「まて、まて、」と声がしました。
男はどんな具合になっているのかと、不思議に思い、みかんに耳を当ててみると、中で老人がしきりに話し込んでいる。聞き耳をたてると、
「また、わしの勝ちじゃな。」
「いやいや、そうたびたび負けてばかりおられぬ。」
「それでは、こうといくか。」
といい、パチンと石で木の面をたたく音がしました。しばらくすると、たまりかねたような声で、「まてよ・・・まてよ・・・ううん。」と、うなって、しばらく音も声もしません。
男はなんのことか、さっぱりわからないので、中をのぞいてみたくなり、小さな棒きれをとってみかんの皮に穴をあけ、目を細めてのぞきこみました。

みかんの中には白いひげをのばした二人の老人が、碁盤を囲んでさかんに碁を打っていました。
穴に背を向けている老人の方が、勝っているらしく、余裕をもってあごひげを、ときどきしごいているのに、穴の正面にいる老人は、碁盤を見てうつむき、頭を左に右にしきりにひねっています。ときたま「うーむ」と苦しそうな声を出しています。ようやく正面の老人は、おもいきってパチリと黒石を打ち、顔をあげると光のさし込むみかんの穴に目を向けたのでした。とつぜん、老人の目と男の目があって、驚きながらもおたがいに、にっこりと笑いました。

どうやら碁は、正面の老人が負けそうで、なんとか挽回をねらっているようでした。男もなかなかの碁打ちでした。ときに、食事も忘れて碁を打ち続け、家族の者にしかられるほどでした。老人たちの碁を見ているうちに、まだ黒が勝てる手を探し出しました。こうなっては、男はじっとしていられません。みかんの皮の穴をだんだん大きく拡げ、指をさしこんで、黒に合図をして、石をさす場所を教えてやるのでした。黒石をもった老人は、にっこりとうなずくと、力をこめてパチンと石を置くのでした。

「うむ、これは良い手じゃ。」と背を向けた老人は残念そうにいい、チエッと舌を鳴らしました。男の指が、つぎの石を置くところを示すと、老人はうなずいてまた、パチンと石をおろしました。「こりゃこりゃ、また読まれたか。」と後ろ向きの老人は、正座にすわりなおして、真剣になるのでした。男はもう完全に、自分が碁を打っている気持ちになり、とうとうみかんの皮に、体が入るほどの穴を開けてしまい、体を半分のり入れてしまいました。男の助け舟で、碁の勝負は逆転し、黒をもつ老人はニコニコあごひげをしごきながら、相手の手を待っているのでした。
「変だなあ、今までおぬしに一度だって、負けたことないのに。」
「そうはいかんさ、いつも柳の下にどじょうはおらんからな。」
と正面の老人はいつにない調子のいい顔つきで、大きくあいた穴のほうに目をむけ、相づちをうつように首をたてに振りました。そのとき、碁盤から目をあげた、うしろ向きの老人は、体をのり出した男をとうとう見つけてしまいました。
「ややや、こいつはずるいぞよ、ないしょで教えていたな。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ、急にばか強くなったと思ったが、どうりで。」
「あーあ、どうもどうも、ばれてしまってはしょうがない。」
「アハハハハ。」
「アハハハハ。」
二人は大きな口を開けて笑い転げました。
すると、二人の老人は立ち上がりながら碁盤の上の石を、わしずかみにし、「けしからんやつじゃ。」と言いながら男めがけてバラバラふざけるように投げつけました。
男も笑いながら碁石をあびたが、二人の老人は、あっという間にどこかへ消えてしまいました。

大きなみかんは、ぽっかりと二つに割れてしまい、中から種がバラバラとこぼれ落ちました。
男は夢でも見ていたような気持ちで、今しがたの出来事をしばらく思い出していました。やがて、何を思ったのか、男は散らばった大粒のみかんの種をかき集めて山を下りました。

男がこの種を畑にまき、苗を育てたところ、めずらしく大きく、その上、味も色もよいみかんがたくさん実りました。木負のみかんはこうして、ますます多くの人に知られていったのでした。

『沼津市誌』より (引用)


参考URL(1)
http://jutaro-mikan.web.infoseek.co.jp/nishiura-mikan.html
ナレーション市原悦子
出典岸なみ(未来社刊)より
出典詳細伊豆の民話(日本の民話04),岸なみ,未来社,1957年11月25日,原題「仙人みかん」,採録地「古字」
場所について静岡県沼津市西浦木負の周辺
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地図:静岡県沼津市西浦木負の周辺
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※掲載情報は 2011/6/9 0:41 時点のものです。内容(あらすじ・地図情報・その他)が変更になる場合もありますので、あらかじめご了承ください。
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コメント一覧
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箱庭村民  投稿日時 2013/2/11 20:07
昔、日本昔話でもない本に同様の話が載っていました。(中国から来た話のよう)うろ覚えですがでかいみかんを見つけその中で二人が囲碁をしており片方に肩入れしての流れは同様です。最後の終わりはこれでまいた種は種なしミカンとしなったとして(マンガ日本昔話&その本)、種なしミカンの始まりと言われています。
ゲスト  投稿日時 2011/10/4 13:21
樋口さんのブログに、キャラ表があります。こちらも是非アニメで見たいです。
http://d.hatena.ne.jp/manga-do/20061107
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