昔、広島の尾道に築島(きずきじま)という所があり、築島の久保明神には幽霊が出るという噂があった。幽霊は夜な夜な明神様の銀杏の木の下に現れ、「かんざし欲しい…」と悲しげな声で訴えるのだという。
この幽霊の噂が広まりしばらくしてから寺の住職の元に、数年前まで海鮮問屋の浜屋で奉公していた女が訪ねてきた。女は幽霊に心当たりがあると言い、七年前に起きたある出来事を話し始めた。
当時の浜屋はとても繁盛しており、浜屋の主人は一人息子の清吉に跡を継がせようと隣町の越後屋の娘との縁談を考えていた。しかし清吉は貧乏長屋に住むおキヌという娘と恋に落ちてしまい、二人は身分が違えども離れられぬ仲となった。二人の関係は町中の噂となり浜屋の主人は清吉に早くおキヌと別れるよう忠告するが、清吉は一度おキヌに会って欲しいと聞かぬ一方であった。
そしてある日、浜屋の主人がおキヌに会ってみてもいいと言う。喜んだ清吉は呉服屋で上等の着物をおキヌに与え、ついに父親に会わせる事となった。ところが浜屋の主人はおキヌを一目見ると、先祖の掟通りにかんざしを挿していないという理由で清吉との結婚を諦めるように告げた。
これを聞いたおキヌは悲しみのあまり久保明神の側の海で身を投げ、清吉もおキヌの後を追い同じ海で身を投げてしまった。清吉を失くした浜屋の主人は力を落としてしまい、やがて店も落ちぶれていったという。
女から話を聞いた住職達はおキヌを哀れに思い、早速町の人達と相談しておキヌが身を投げた銀杏の木の横に、かんざしの形をした燈籠を建てた。この燈籠は「かんざし燈ろう」と呼ばれ、今も築島の久保明神に立っているという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2012-11-4 2:16 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 広島のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 広島のむかし話(各県のむかし話),広島県学校図書館協議会,日本標準,1974年05月25日,原題「かんざし燈ろう」,採録地「尾道市」,文「高田仁」 |
場所について | 八坂神社 |
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