昔、愛媛の上沢(かみざわ)の山里に、カンタという木こりの若者が住んでいた。働き者のカンタは、毎日のように雨霧山(あまぎり山)へ出かけ、仕事に精を出していた。
ある日の事、霧にまかれて道に迷ったカンタは、一軒の山小屋を見つけて一晩の宿をお願いした。山小屋には白髪の老婆がいて、夕飯をご馳走になりながら不思議な南天の木の話を聞いた。「雨霧山には大きな南天の木があって、その木の枕で寝ると先の事が分かるようになる」
朝になって目をしましたカンタは、不思議な事に昨夜の山小屋も老婆の姿もなかった。カンタがふと前方を見ると、なんとあの南天の木が目の前にそびえ立っていた。昨夜の話を聞いていたカンタは、南天の枕が欲しくなって、南天の木を切ろうとマサカリを探すがどうにも見当たらない。仕方がないので、目印をしてその日は山を下りた。
翌朝、カンタはマサカリを持って南天の木のある場所に出かけたが、昨日あったはずの南天の木は影も形もなくなっていた。それからのカンタは、毎日毎日南天の木を探しに雨霧山に出かけて行った。ところが、南天の木はカンタがマサカリを持っていない時にしか発見できなかった。あきらめきれないカンタは、まるで憑りつかれたように毎日々雨霧山へ行った。
ついにカンタは、マサカリが使えないならと、南天の木の幹をネズミのように口でガリガリとかじり始めた。口から血が流れても一生懸命にかじり続けたカンタは、その日から村には帰ってこなかった。
(紅子 2011-7-20 0:54)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 愛媛県 |
場所について | 愛媛の雨霧山(あまぎり山) |
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