昔あるところに、子どもは居ないが仲の良い老夫婦が住んでおりました。この「じいじ」と「ばあば」は、耳は遠いけれど喧嘩を一度もしたこともありませんでした。
ばあばは、朝になると朝日に今日の無事を祈り、朝ご飯を用意してじいじと一緒に食べるのが日課でした。ところがそんなある時、ばあばは寝過ごしてしまい、焦って早くご飯を炊こうとしました。しかし杉葉が湿っていてすぐに火がつきません。
焦ったばあばは、火吹き竹で釜の頭を「はよう、火ぃつかんか!」と叩き始めました。その音に目を覚ましたじいじは、「ばあば、釜の頭を叩くもんじゃない」と言いましたが、耳の遠いばあばには聞こえていません。
じいじは諦めて、朝ご飯ができるまで草むしりでもしていようと外に出ていきました。外に出て行ったじいじを見たばあばは、「朝ご飯ができてないから、じいじは怒ってしまった」と思って、ますます強く釜の頭を叩き始めました。
そうするうちに竈(かまど)には火がつきましたが、ばあばは釜の頭を叩くのをやめませんでした。やがて叩かれていたお釜は、唸るような音を立てて、ぽーんと飛び出て家の外へ逃げていってしまいました。ばあばは驚いて釜を追い掛け、じいじもそれを見てばあばを追いかけましたが、釜は池の中へ落ちてしまいました。
自分が朝寝坊したばかりにとんでもないことになったと嘆くばあばに、じいじはそっと「誰でも叩かれたら嫌になってしまう。釜を叩いたりしたらいけないよ」と耳元で言いました。反省したばあばが、二度と釜を叩いたりしないと言うと、不思議なことに池の中から釜が浮き上がってきて、ばあばの元に帰ってきました。
それからばあばは、釜を綺麗に拭いて、二度と釜の頭をたたくようなことはしなくなりました。そしていつまでも夫婦仲良く長生きして暮らしたということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-9-10 17:38)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | クレジット不明 |
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