昔、奈良の上湯川(かみゆのかわ)の山の奥に、大勢のひょうし(木を切る日雇いの人夫)が山仕事に入っていた。山の仕事場は村から離れているので、ひょうしたちは山の中に小屋をかけて、そこでかしき(炊事番)の少年を雇っていた。
ひょうしたちは、一本でも多く木を切り倒せばそれだけ銭がもらえるので、山の木をどんどん切り出し、今や山は禿げ山になりつつある。ところが、そんな山を見て心を痛めていたのは、このかしきの少年だった。少年は山の神様に申し訳ないと思い、毎日山の神様にご飯をお供えし、「般若心経、般若心経・・・」と唱えていた。
そんなある雨の夜のこと、ひょうしたちが小屋の中で給金を受け取っていると、突然雷が鳴り、「般若心経出てこ~い!!」と言う低い声がどこからともなく聞こえてきた。ひょうしたちは震え上がり、「般若心経とは、お前のことじゃ!!」と言って、少年を小屋から追い出してしまった。
ところが、外に放り出されたかしきの少年を待っていたのは、やさしそうな老人だった。老人は、「心配せず、私の後についてきなされ。」と言うと、山を下り始めた。そして、ふもとの里の近くまで少年を案内すると、不思議なことに老人の姿は消えてしまった。
一方、少年を追い出した山小屋では、今度は「やるぞ~、やるぞ~!!」という不気味な声が聞こえてきたのだ。そして、事もあろうにひょうしたちは、この声に「やるなら、勝手にやれ~!!」と答えた。
すると、ゴゴゴゴー!!という地鳴りとともに、土砂崩れが小屋を襲った。ひょうしたちは命からがら逃げたが、みんなこの山崩れで大怪我を負ってしまった。
このことを聞いた村の人たちは、禿げ山を見て、申し訳ないと心から思っていたかしきの少年を、山の神様が助けてくれたのだと噂しあった。そしてその後、みんなで木の苗を禿げた山に植えたということじゃ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-6-9 8:55)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 奈良のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 奈良のむかし話(各県のむかし話),奈良のむかし話研究会,日本標準,1977年09月01日,原題「山の神とかしき」,話者「中本豊太郎」,採録者「林宏」,再話「後木隼一」 |
場所について | 奈良県吉野郡十津川村上湯川(地図は適当) |
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