むかし、愛媛県広田の北が森という所に、日照りの時も水の枯れない池があった。その池には三尺もある赤と黒の二匹のドンコが住んでおった。村人たちは祠を立ててドンコを祀り、毎日たくさんのお供え物をしておった。
北が森の近くの河原には、たくさんの河童が住んでおった。ある夜、小太郎という若い河童が、ドンコを退治してお供え物を横取りしようと、北が森の池に向かったそうな。
小太郎は池に着くと、池に石を投げこんでみた。じゃが水の中のドンコは全く動かず、眠っているようじゃった。小太郎はドンコが目を覚まさないように、素早く二匹を岩の上に引っ張り上げた。それでもドンコはやっぱり動かんかったそうな。
小太郎はすっかり気が大きくなり、祠を蹴倒し、お供え物をむしゃむしゃ食べた。そうして《背中からチリチリ炙って皆で喰ってやろう》と思い、ドンコを背負って歩き出した。
ところが、いくら歩いても同じ所をぐるぐる回っているようで、ちっとも前に進めない。そして、背中のドンコがどんどん重くなってきて、とうとう小太郎はドンコの重みで動けなくなってしもうた。
その時、「ドンコ、どこへ行くんじゃ?」と一匹の大蛇が現れた。すると二匹のドンコは目を開き「背中を炙りに行くんじゃ。この河童が背中をチリチリ炙ってくれるんじゃと」と答えたそうな。「ドンコは、おらが考えてたこと全部分かっておったのか……」小太郎は、必死でドンコに謝った。すると二匹のドンコは呵呵と笑い、池の中へ姿を消していった。
小太郎はしばらく呆然と池を眺めておったが、慌てて祠を元通りにし、河原に逃げ帰った。それ以来、小太郎はけして池のお供え物を羨ましがることなく、北が森の池に近づくこともなかったそうな。
そうして、池はそれからもどんな日照りにも枯れることなく、村人たちを守り続けたということじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-9-17 10:19)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 愛媛のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 愛媛のむかし話(各県のむかし話),愛媛県教育研究協議会国語委員会、愛媛県教育会,日本標準,1975年11月10日,原題「北が森のドンコ」,話者「門田正市」,再話「亀岡孝次郎」 |
場所について | 愛媛県伊予郡砥部町の旧広田地区(地図は適当) |
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