昔、九州は福岡での話。
庄屋どんの所に、茂左(もさ)という作男がいた。この茂左という男、どういう訳かトンビが大好きで、よく松の木のある高台のそばに来ては、トンビを眺めていた。
ある、のどかな春の日、茂左は畑の草取りを終えると、今日もトンビを眺めては、トンビの真似をしながら畑の周りを駆け回っていた。そして、自分もトンビのように空を飛べたら、どんなにか気持ちがいいだろうと思うのだった。
これを見た庄屋の爺さま、ちょっと茂左をからかってやろうと思い、こんなことを言った。
「ワシは、人をトンビにする術を心得ておる。お前は、この松の木のてっぺんに登って、ワシ言う通りにするんじゃ。」
これを聞いた茂左は、大喜びで松の木に登っていった。茂左が松の木のてっぺんに登ると、庄屋の爺さまは、順番に左足、右足、左手を枝から放すよう茂左に言った。茂左は言われた通りにして、今や右手一本だけで松の木の枝にぶら下がっている。
そこで爺さまは、「ついでに右手も放せ~!!」と松の木の下から言った。茂左はこれを聞くと、何の疑いもなく右手を放した。茂左の体は、地面目がけて真っ逆さまに落ちて行く。すると落ちていく最中、なんと茂左は本当にトンビになってしまったのだ。トンビになった茂左は、空の彼方へと飛んで行く。
これを見て驚いた爺さまは、大急ぎで婆さまを呼んだ。爺さまは、自分もトンビになれるのではないかと思い、自分が茂左にしたのと同じように、松の木の下から声をかけるよう婆さまに言った。
こうして、爺さまは松の木のてっぺんに登ると、婆さまに言われた通り、左足、右足、左手を放した。そして最後に、婆さまの言う「右手を放せ~!!」の声で右手を放した。
爺さまは、木から真っ逆さまに落ちるが、どうした訳か今度は何も起こらず、そのまま地面に激突してしまう。結局、爺さまは、しこたま頭をぶつけただけで、トンビにはなれなかったという話だ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2014/4/23 11:31)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 福岡県 |
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