むかしむかし、ある村に『かねやん』というお百姓がおった。かねやんは狸と仲が良くて、話ができるという話じゃった。昔には珍しい人もおったことよなぁ。
ある日、かねやんは権兵衛の家へ用事で出かけた。すると権兵衛は寝込んでおって、布団の足元に狸が取り憑いておった。かねやんが怒ると、狸は「他に行く所が ないんじゃ!」と言い返す。じゃが「儂らみたいな貧乏人じゃなく、金持ちの金兵衛さん所へ行けや!」と、かねやんが怒鳴ると、狸は出て行ったんじゃと。取 り憑いた狸の姿が見えない権兵衛はキョトンとしておったが、狸が出て行くとたちまち元気になったそうな。
その後、狸はかねやんに言われたとおり金兵衛さんに取り憑き、金兵衛さんは寝込んでしもうた。かねやんは、ほんの思いつきで言ったのじゃが、金兵衛さんにはいい迷惑じゃった。
何日かして金兵衛さんが寝込んでいると聞いたかねやんは、早速見舞いに出かけた。するとまたまた、狸が金兵衛さんの布団の足元に取り憑いておった。
「こら狸、お前なんでこんな所におるんじゃ?」
「かねやんが金兵衛さんに取り憑け言うたんじゃないか!」
「何、儂はそんなことは絶対に言わんぞ!言うたかどうか忘れてしもうた!」
「絶対に言うた!狸は嘘はつかんきに!」
かねやんと狸はとうとう取っ組み合いの大喧嘩。そうして、かねやんは何とか狸を屋敷から叩き出したそうな。
狸が出て行って元気になった金兵衛さんは、かねやんが狸を自分に憑かせたと言って怒りだしたが、かねやんが平謝りに謝って、やっとのことでこの騒ぎは収まったそうな。
ところでその後、狸がどうしたかというと、他に行く所もなしという訳で、かねやんの家におって、食事等も三度三度よばれておりますそうな。まあ、昔には色々と妙な話があったものじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-12-31 18:08 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 市原麟一郎(未来社刊)より |
出典詳細 | 土佐の民話 第二集(日本の民話54),市原麟一郎,未来社,1974年08月30日,原題「狸が友だち」,採録地「高知市」,話者「森田保」 |
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