むかしむかし、ある海辺の村に大きな池があって、たくさんの金魚が住んでいました。村では金魚は池の主のお使いだから、もし捕まえたりしたら恐ろしい祟りがあると言い伝えていました。
ところで、この村には千代という娘がおりました。千代は早くに両親を亡くし独りぼっちでしたが、やがて村でも評判の腕の良い海女になりました。ただ、千代は器量が悪く、男衆からは軽く見られるところがありました。
ある夜、村の若い衆が偶然千代を見かけ後をつけて行くと、千代はあの池の中に入って行きました。すぐに、千代は夜中に金魚を獲っているという噂が経ちました。
心配した海女の仲間が千代に問いただすと、千代は「おら、金魚を獲ってなんかいない。夜一人でぽつんといると、無性に金魚に会いたくなるだけじゃ。」と言いました。そうしてうっとりと、池に潜ると金魚達が歌を歌ってくれるというのでした。金魚達は哀しげに海を渡って竜宮に行きたいと歌うというのです。
海女達は、千代にもう池には行くなときつく言って聞かせましたが、千代はそれからも金魚に会いに行くのを止めようとはしませんでした。
そして、ある十五夜の晩のこと。いつものように千代が池で金魚と泳いでいると、金魚達が歌い始めました。
「月夜の晩に行きたいな 出たいな出たいな この池を 早く出たいな行きたいな 海を渡って竜宮へ」月の光が射す水の中、千代はいつまでも金魚と一緒に泳ぎ回りました。
そうして、千代は池に行ったまま戻ってきませんでした。村中大騒ぎになり、千代を探しまわったのですが、池の西の岸辺に千代の草履と着物が残っているだけでした。不思議なことに池の金魚も姿を消してしまい、その後は池で金魚の姿を見ることはなかったそうです。
海女達は、「祟りなんかじゃねえ。千代は龍宮に行ったんじゃ。龍宮には千代がいる。」と、この話を語り伝えたということです。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-9-15 9:50)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 石崎直義(未来社刊)より |
出典詳細 | 若狭・越前の民話 第二集(日本の民話73),杉原丈夫、石崎直義,未来社,1978年12月15日,原題「金魚に取憑かれた若者」,採録地「敦賀市」,話者「笠原一夫」,再話「石崎直義」 |
場所について | 敦賀の浜の浦底の里(地図は適当) |
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