昔々、陸奥(みちのく)は鹿角(かずの)の里に人が住み始めた頃の話。
ここら辺の土地はやせていて、村人たちが畑を作ってもあまりよく作物が育たず、生活は楽ではなく、人々はひもじい思いをしていた。ところが、そんな村に追い討ちをかけるような出来事が起こった。
ある夜、尾去沢(おさりざわ)の奥の大森山の山頂が光り、火の鳥が現れたのだ。この鳥は、頭が大蛇で胴体は牛のようであり、左右の翼は十余尋(ひろ)(約20メートル)もあった。この怪鳥が川の上を飛べば、川の水は煮えたぎり、畑の上を飛べば、作物は全部枯れてしまうのだった。困った村人は、むら長(むらおさ)と一緒に村の守り神である獅子王さまにお供えをして、火の鳥を退治してくれるように祈った。
するとある晩、大森山から火の手が上がり、火の鳥の甲高い悲鳴とともに、なにか争うような音が聞こえた。大地は震え、北は十和田湖から南は田沢湖までもが波しぶきを上げた。一族の守り神、獅子王と火の鳥が戦っていたのだ。夜が明ける頃には、さすがの火の鳥も退治され山々は静けさを取り戻した。
村人たちは獅子王に感謝し、火の鳥の正体をつきとめるべく大森山へと向かった。すると、山の奥の滝つぼのわきに火の鳥は巨体をさらけ出して倒れていた。村人が火の鳥の腹を割いてみると、腹からは金銀がたくさん出てきた。それにより、村人は大森山には金銀がたくさんあり、火の鳥はそれを食べていたことを知った。
ここでむら長は、夢のお告げを思い出した。実はむら長は、夢で白髪の老人から村の窮状を救うため新しい山を開拓するように言われていたのだ。むら長は大森山こそ夢のお告げの山であると確信した。
こうして尾去沢の鉱山は開拓され、村は鉱山から採れる金銀のおかげで豊かになり、村人が空腹に耐えるようなことはなくなったということだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-7-16 10:37)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 瀬川拓男(角川書店刊)より |
出典詳細 | 自然の精霊(日本の民話02),瀬川拓男,角川書店,1973年8年23日,原題「火の鳥」,伝承地「秋田県」 |
場所について | 鹿角市尾去沢字西ノ沢20 尾去八幡神社 |
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