むかしむかし、大むかし。神様が人間や生き物をお造りになったばかりの頃のお話じゃ。夫婦は最初、背中合わせにくっついて生まれたんじゃそうな。夫婦は、働く時も飯を食う時も、夜寝る時もいつも一緒で、とても幸せに暮らしておった。
ところがある夜、突然男が「ずっと以前からお前の顔を見たいと思っておったんじゃ。」と言いだした。すると女も同じことを思っており、背中あわせにくっついた夫婦は、急に互いの顔を見たくてたまらなくなった。
そこで夫婦は自分達を造ってくれた神様に、背中を割ってお互いの顔が見えるようにして欲しいと頼んでみた。神様は「一心同体の夫婦の背中を割って、二人にせよと言うのじゃな!?」と言って、そのとたん夫婦の背中が割れたそうな。
ところが男は、あんまり嬉しくて飛んで跳ねて、どこかへ行ってしもうたのじゃった。残された女は寂しくてたまらず、男を探すために旅に出た。一方、我にかえった男も女を探し回ったが、二人ともなかなか相手を見つけることはできなかった。
ある雨の日など、二人は別々の方向から来て一本の大きな木の下で雨宿りをしたが、お互いに気づかず、雨が上がるとまた別方向へ歩き出してしまったのじゃった。
すっかり悲観に暮れた男は、もう一度神様の所に行ってお願いした。神様は男に『愛の魂(たま)』を与え、男は愛の魂の力を頼りに女を探したが、それでもなかなか女を見つけることはできなかった。
ある時、男は樫の大木の下で雨宿りをした。そこは以前、夫婦が知らずにすれ違ったあの木の下じゃった。すると突然、愛の魂が二つに分かれて、一方が同じように雨宿りしていた女の元へ飛んで行った。そうして愛の魂は二人を包み、二人の心の中に残ったそうな。やっとお互いを見つけた夫婦は、いつまでも見つめ合いながら語りあったのじゃった。
それ以来夫婦というものは、昔くっついていた片割れと結ばれるものだというそうじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-5-4 20:36)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 周防・長門の民話 第二集(日本の民話46),松岡利夫,未来社,1969年10月20日,原題「夫婦のむかし」,採録地「玖珂郡、大島郡、熊毛郡」,話者「藪中正、後藤柳助、弘中数実」 |
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