昔、熊本県の菊池に「地獄」と呼ばれる所がありました。
たまたまこの近くを通りかかった行商の男が、一晩の宿をもとめて一軒の民家に立ち寄りました。民家の夫婦は男を快く迎え入れ、宿屋にしては汚れた薄気味の悪い部屋に通してくれました。しばらくして、旅の疲れからぐっすり寝込んでいた男の耳に、隣の部屋から夫婦の話し声が聞こえてきました。
「今晩は手打ちにしようか、半殺しにしようか…」と、相談している声でした。男は「きっとここは強盗の家だったんだ」と思い、スキをみて逃げ出そうとしましたが、四方を壁に囲まれた部屋からは逃げられませんでした。男は恐怖で身震いしながら、夕食に出されたぼた餅の味も分からないまま平らげて、夫婦の機嫌を損ねないように振舞いました。
しかし、夜になっても部屋の前には夫婦がいたため、なかなか逃げるチャンスがありませんでした。しばらくすると、亭主が「お前は地獄で待っていろ、俺が首をひねるから」と嫁に言っている声が聞こえてきました。男はあまりの恐ろしさに、民家から一目散に逃げ出しました。
男は町の奉行所にかけ込み、これまでの事を話しました。それを聞いた役人は、笑いながら「手打ちとは手打ちうどんの事で、半殺しというのはぼた餅の事だよ。それに地獄というのは湧水があった場所の事で、首をひねるというのはミノの襟をワラで縒る(よる)という事だよ」と説明してくれました。
男は夫婦の元に戻り、自分の勘違いを詫びました。それからの男は、まずその土地の言葉をよく理解してから話すようにしたそうです。
(紅子 2012-6-29 1:15)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 熊本県 |
場所について | 昔、地獄と言われたエリア(地図は適当) |
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