今からおよそ四百年ほど前のこと、栃木県の氏家(うじいえ)に小さな地蔵寺があり、気の優しい住職が一人で守っていました。ある日、この領内のお殿様(勝山城の左衛門尉、さえもんのじょう)から、自分の代わりに日光の二荒山神社へお参りに行くよう、頼まれました。住職は喜んで日光へ出かけ、心をこめて殿様の代わりとてして丁寧にお参りをすませました。
無事に大役をすませた帰り道、滝尾別所という所の谷川で一休みしていると急にお腹がすいてきました。近くにあった別所に立ち寄り「そうめんを一杯ご馳走して下さい」とお願いすると、別所の坊さん達はなにやら薄気味悪い笑いを浮かべながら、お堂に招き入れました。
やがて別所の坊さん達は、お膳に大山盛りのそうめんを運んできて「いっぱい食わせろと言ったのだから全部食え」と意地悪を言いはじめました。住職はお腹いっぱいに食べましたが全部食べられるはずもなく、泣いて謝りましたが、意地悪な別所の坊さんたちは許してくれません。
するとそこへ、旅の僧が「そうめんをいっぱいご馳走してくだされ」と、やってきました。別所の坊さん達はシメシメとばかりに、さっきよりもっと大山盛りのそうめんを差し出しました。しかし、旅の坊さんはつるつるぺろりと食うわ食うわ、あっという間に大山盛りのそうめんを平らげてしまいました。
悔しがった別所の坊さん達は、日光中のそうめんを買い集めて旅の坊さんに出しましたが、顔色も変えず全部平らげてしまいました。驚く別所の坊さんの目の前で、旅の坊さんは煙のように消えたかと思うと、そこには立派なお地蔵様が現れました。
実は、旅の坊さんは住職のお寺のご本尊様だったのです。さすがに別所の坊さん達も、泣きながら謝りました。そこへ、一人の木こりが「この西の谷にドンドンそうめんが流れている!」と、かけ込んできました。
こんな事があってから、この谷をそうめん谷といい、氏家の地蔵さまをそうめん地蔵と呼ぶようになったそうです。
(紅子 2011-11-21 1:30)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 栃木県 |
DVD情報 | DVD-BOX第5集(DVD第23巻) |
現地・関連 | お話に関する現地関連情報はこちら |
場所について | 将軍地蔵(そうめん地蔵) |
本の情報 | 講談社デラックス版まんが日本昔ばなし第49巻(絵本発刊日:1986年03月15日)/講談社テレビ名作えほん第041巻(発刊日:1981年3月) |
絵本の解説 | “一杯”を一膳ではなく、わざと沢山という意味にとり、食べきれないほどのそうめんを無理やり食べさせて、人のよいお坊さんを苦しめるとは意地の悪い僧どもです。しかしこの悪僧たちも、旅の僧が日光じゅうのそうめんをたいらげ、お地蔵様に姿を変えたのにはびっくりぎょうてん。お地蔵様は、人間の良い心も悪い心もお見通しというわけです。悪僧たちも自分の心を恥じた事でしょう。この話は、日光の輪王寺で行われる、有名な「強飯式」のはじまりともいわれています。(栃木地方の昔ばなし)(講談社のデラックス版絵本より) |
講談社の300より | 書籍によると「栃木県のお話」 |
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