昔、広島の山奥に川戸村というところがあった。そこに、留吉(とめきち)とみよという夫婦とその赤ん坊が住んでいた。
ある年、この村では日照りが続き、山の草木は枯れ、動物たちは食べるものに困っていた。有難いことに、留吉たちの田んぼだけは、なんとか作物が実ったが、それでも小さい田んぼからとれる量はしれたものだった。
やがて取り入れの時期になった。みよは、留吉のためにキビ餅を作り始めた。すると突然、赤ん坊が泣きだしたので、みよが振り向くと、恐ろしい顔をした狐が、襖の陰からのぞいていた。そうして狐は、キビ餅の方へ近づいてきた。みよはキビ餅を取られてはなるまいと、囲炉裏で燃えている木を狐に投げつけてしまった。それは見事に命中し、狐はうめきながら逃げて行った。
夕方になって、山仕事を終えた留吉が帰ってみると、家の中に赤ん坊がいないことに気付いた。みよは、残りの仕事を片付けていたため気がつかなかったのだ。そうしてみよは、昼間の狐のことを留吉に話すと、二人で赤ん坊を探し始めた。この地方では、狐が人に恨みを抱くと、必ずかたき討ちをしにくると信じられており、それを「きつねのあたん」と呼んで、たいそう恐れていたのだ。
山に慣れている留吉は、狐がよく現れる場所へ行った。みよも、村人に頼んで大勢で留吉の後を追って探した。が、どんなに探しても赤ん坊は見つからない。そうして夜になった頃だった。二つの大きな岩の間から、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。留吉たちが入ってみると、そこには赤ん坊が元気にないていた。留吉とみよは嬉し涙にくれた。「なあみよ、狐も子供たちにキビ餅を食べさせたかったのじゃろう。」
留吉のいうことにみよもうなずいた。次の日、二人はそっとあの大岩の間にキビ餅を置いたのだった。
(投稿者: 十畳 投稿日時 2011-8-11 17:03 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 広島県 |
場所について | 広島県山県郡北広島町川戸(地図は適当) |
本の情報 | 国際情報社BOX絵本パート2-第113巻(発刊日:1980年かも) |
講談社の300より | 書籍によると「広島県のお話」 |
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