昔、大阪の天満に「とらやん」というのらくら者が住んでおった。ある日とらやんは、母親の言いつけでウナギを買ってきた。家に帰りさっそくウナギを調理しようとしたところ、ウナギが手をすり抜けて逃げてしまった。
ウナギを追いかけているうちに、いつの間にか大根畑が広がるところまで来てしまった。大根を収穫していた百姓に訳を聞かれ、「大事なウナギが逃げてしまった」と泣きわめくとらやん。百姓は「そりゃ悪かったな。大根を何本か持って行け」と言ってくれた。とらやんは大きな大根を抜いた拍子に高く空に飛びあがってしまった。
とらやんが落ちたのは傘屋の家であった。驚く傘屋の主人に今までのいきさつを話し、とらやんは傘屋の手伝いをすることになった。主人の言いつけで、とらやんは貼りあがった傘を干そうと、庭で傘を広げた。すると、とらやんは強い風にあおられて傘ごと天高く舞い上がってしまった。
着いたところは雷様の家の前。今までのことを聞いた雷様は、じょうろで雨を降らせる役をするよう、とらやんに言った。雷様の女房が目で稲妻を起こし、雷様が太鼓をたたき、とらやんがじょうろで雨を降らせる。人々が雨にあわてる様子を見て喜ぶとらやんであったが、調子に乗って雲から足を滑らせ、まっさかさまに海の中に落ちてしまった。
「竜宮城でもないかな」と海の中を泳いでいたところ、本当に竜宮城があり、きれいな乙姫様が迎えてくれた。魚たちの踊りを見ながらごちそうを食べるとらやんであったが、便所に行きたくなった。便所に行く途中、何やらとてもおいしそうなものが浮かんでいる。乙姫様から「途中、どんなにおいしそうなものがあっても、決して食べてはいけない」と言われていたが、とらやんは思わずそれを口にしてしまった。それは漁師の釣竿についていた餌であった。
こうして、とらやんは漁師に釣り上げられた。漁師たちは大変驚いたが、「男の人魚が釣れた」と喜んで浜辺に戻った。とらやんが「わいは人魚ではない、天満のとらやんや」と言っても全然信じてもらえなかった。とらやんの大旅行はこれで終わりである。
(投稿者:カケス 投稿日時 2014/3/2 11:58)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 二反長半(未来社刊)より |
出典詳細 | 大阪の民話(日本の民話16),二反長半,未来社,1959年01月30日,原題「のらくらとらやん大旅行」,採録地「大阪市南区」,話者「松下半次郎」 |
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