昔、丹波の山奥にぶんぶくという若者が、おふくろさんと2人で住んでいた。ぶんぶくは、近々友達とお伊勢参りと京見物に行くことになっていた。そこで旅費の小遣い稼ぎにと、山に入って薪を取っていた。
そんなある日、ぶんぶくが上林(かんばやし)の川ぶちで薪を取っていると、どこからともなく美しい娘が現れて、京都の北、深泥ヶ池(みどろがいけ)に住む姉の所に、手紙を届けてほしいと頼んだ。そして旅費の足しにと、ぶんぶくに銭さしを渡した。
こうしてぶんぶくは、村の衆と一緒に京へと出かけた。ところが不思議なことに、ぶんぶくが茶店などで代金を払っても、銭さしの小銭はいっこうに減らない。ぶんぶくが渡されたのは、つきぬ銭さしだったのだ。このおかげで、ぶんぶくは道中お金に困らず、大いに助かった。
さて、京に着いたぶんぶくは、仲間たちと別れて深泥ヶ池を目指した。土地の者に場所を尋ねると、あそこへ行って帰ってきた者はいないと止められたが、手紙を届けないわけにはいかない。ぶんぶくは、山を越え、恐ろしい野犬のいる野原を越え、とうとう深泥ヶ池に着いた。
そして、ぶんぶくが沼の前で手紙を届けに来た旨を伝えると、沼の中から美しい娘が現れ、ぶんぶくを沼の中の館へと案内した。ぶんぶくは、この館でお酒やご馳走で歓待を受け、お土産に一匹の小さな犬をもらった。この犬は、1日に米粒1粒を食べさせれてば、金を3粒産むという宝の犬だったのだ。
こうして、村に帰ったぶんぶくであったが、村では神隠しにあったぶんぶくが帰ってきたと大騒ぎ。なんと、ぶんぶくが深泥ヶ池の館で過ごした1日は、この世の3年にも相当したのだ。
ぶんぶくがもらってきた子犬は、それから毎日金の粒を3粒産んだが、ある日ぶんぶくが出かけている時、欲をかいたおふくろさんが子犬にたくさんご飯を食べさせので、子犬はお腹をこわして死んでしまった。また、それからというもの、銭さしも増えるのをやめてしまったという。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-1-14 9:41)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 二反長半(未来社刊)より |
出典詳細 | 京都の民話(日本の民話41),二反長半,未来社,1965年10月10日,原題「つきぬ銭さし」,原話「原田重夫」 |
場所について | 京都市北区上賀茂狭間町の深泥池 |
7.40 (投票数 5) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧