むかし、ある村に立派な屋敷に住む庄屋さんがおった。
庄屋さんの屋敷は、村人が気軽に入って来られるよう入口の扉はとっぱらってあったそうな。この庄屋さん、村人を集めては、得意の弓や、趣味で集めた様々な品物の話をするのが大好きじゃったんじゃと。
さて、この村の悩みの種は、裏山に住む天狗が悪戯をすることじゃった。例えば、「子供が川に落ちた!」という声に、庄屋さんや村人達が駆けつけてみると、子供は川になんぞ落ちとらん。仕方なく庄屋さんが屋敷に帰ると、大事な品々が盗まれておる。こんなことが何度もあり、村人達もすっかり怒ってしもうたそうな。
そんなある夜、庄屋さんは下男が裏口で倒れているのをみつけた。聞けば、裏庭で怪しい物音がして恐ろしい顔の天狗が現れたと言う。そこで庄屋さん、弓を持ち出して門から出て行こうとする影を射た。矢は天狗の羽にあたり、天狗は片方の羽だけで山へ逃げて行った。
次の日、庄屋さんの屋敷に気の弱そうな男がやって来た。男は「私は裏山の天狗です。どうぞ羽を返して下さい。」と言うたそうな。下男は、この前見た天狗とはちょっと顔が違うなと思うた。そうして天狗は悪戯をやったことは認めたが、盗みの方は断じてやっていないと言い張ったんじゃと。怒った庄屋さんは天狗を納屋の柱に縛りつけてしもうた。
じゃがその夜、また怪しい人影が現れて屋敷の品物は盗まれた。天狗は盗人ではなかったのじゃ。庄屋さんは天狗に謝り、これからは悪戯はしないと約束させて羽を返してやった。
天狗は庄屋さんにお礼を言い、屋敷の門に盗人を捕まえるまじないをかけて、帰って行った。それから何日かして、門の所で金縛りになった盗人が捕まった。この盗人、天狗以上に天狗のような顔をしておったそうな。
それから村にはもう二度と盗みは起こらなかった。そうして庄屋さんの家の門は、相変わらず開けたまんまにしてあるそうじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-8-18 22:54 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 市原麟一郎(未来社刊)より |
出典詳細 | 土佐の民話 第一集(日本の民話53),市原麟一郎,未来社,1974年06月10日,原題「天狗と庄屋さん」,採録地「宿毛市」,話者「岡本雄二郎」 |
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