むかし、北の海辺の村に、一人の刀鍛冶の爺がいた。
爺には一人の娘がいた。色の白い気立てのいい娘だったので婿のなり手もずいぶんと有ったが、なかなか決まらなかった。
それというのも、爺が「娘の婿に迎える者は、一晩の内に刀千本を鍛えられる者でなくてはならん」と頑固に言い張っていたからだった。
初めのうちは何人かの若者が娘にほれるあまり鍛冶場にこもってみたが、夜が明けるまでに刀千本を鍛え上げることなど人の技で出来ることではなく、村の人は娘に同情していた。
そんなある日の夕方のこと。立派な見知らぬ若者が訪ねてきて、「私は遠い国の者だが、爺の娘を一目見て惚れてしまった。婿にして欲しい」と申し込んだ。
明日の朝、一番鳥が鳴くまでに刀千本鍛えるのが条件と話すと、若者は鍛冶場にこもっている間何があっても見ないでほしいと条件をだした。
こうして若者はその晩鍛冶場にこもって刀を打ち始めたが、若者が打つ槌の音が家をひっくり返すほど大きく、娘と婆は恐れたが、爺は逞しい音と顔をほころばせていた。
翌朝、爺が鍛冶場を覗くと刀千本を鍛え上げた若者が横になっていた。爺は一晩に刀千本を打ち上げる婿が見つかったと大喜びで若者を婿に迎えた。
爺は刀鍛冶を若者にまかせ、のんびりと暮らし始めた。若者の打つ刀のよく切れることはたちまち評判になったが、娘が日に日に痩せていく。爺が娘に話を聞くと、婿はどうも只者ではない。鍛冶場を見てみるという。
爺は止めたが、娘が鍛冶場を覗いて見ると、なんと鬼が刀を打っていた。爺がしかりつけると、鬼は刀を抱えて逃げ出した。
爺は追いかけて「一緒に暮らした仲だろう、一本くらい置いていけ」と声をかけると、鬼は一振り置いていった。ところが銘がないので再び爺が声をかけると、戻ってきた鬼は爪で「鬼神大王波平行安」と刻むと、海上へ逃げ去っていった。
(投稿者:hyro 投稿日時 2014-1-26 13:13)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 松谷みよ子(講談社刊)より |
出典詳細 | 日本のむかし話3(松谷みよ子のむかしむかし03),松谷みよ子,講談社,1973年11月20日,原題「鬼のかたなかじ」,採録地「新潟県」 |
備考 | 採録地は転載された本(日本の伝説下巻,松谷みよ子,講談社,1975年7月15日)で確認。鬼神大王波平行安(きじんだいおうなみのひらゆきやす) |
場所について | 能登の剱地(つるぎぢ)地図は適当 |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第24巻-第119話(発刊日:1978年9月18日) |
サラ文庫の絵本より | 絵本巻頭の解説には地名の明記はない |
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