昔、甲州は西八代のある村での話。この日は光勝寺の法要の日で、どの家も仕事を休み、寺に集まった後には粟の強飯(こわめし)を食べ、若者たちは鰻をとることが習わしのようになっていました。
若者達は『毒もみ』といって木の幹や根っこから毒を取ってそれを団子にして、川に投げ込むという方法で鰻を取る事にしました。
簡単な小屋を作って粟飯(あわめし)で食事を取っていると、小屋に1人の娘がやってきました。 この近くに住むという娘は、若者達に「毒もみは止めておくれ」と、いいました。驚いた男たちは、この娘に粟飯をすすめました。
おいしそうに粟飯を食べる娘を見ていると、首筋に大きな傷痕があるのを見つけました。粟飯を食べおわった娘は「そろそろ帰るね。本当に毒もみは止めておくれよ」 と念を押して帰っていきました。
しかし若者達は、娘の言葉を無視して毒もみをはじめました。 毒団子を池に投げ込むと、バシャバシャバシャという音と共に鰻が浮かんで、若者達の方に流れてきました。大喜びで鰻を取りあげていると、しばらくして巨大な鰻が浮かんで若者達の方に流れてきました。
「きっとこの沢の主じゃな!」
この大鰻を持ち帰るのはとても無理そうだったので、若者たちは早速これをさばいて一杯やることにしました。一人の男が鰻をさばいてみると、鰻の腹から粟粒がこぼれてきました。そして鰻のエラの部分を見ると、あの時の娘と同じ大きな傷がありました。男は一目散に逃げ出し、叫びを聞いた別の男達も、鰻の傷を見て慌てて逃げ出したのでした。
鰻の主が娘に化けて命乞いに来たのに、耳を貸さずに毒もみを撒いて鰻を全滅させてしまった。村人達はどんな祟りがあるやもしれぬと思い、この沢を『鰻沢』と呼んで、それ以降近づかなくなったという事です。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 甲州の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 甲州の伝説(日本の伝説10),土橋治重,角川書店,1976年9年10日,原題「鰻沢」 |
場所について | 鰻沢(山梨県西八代郡三珠町樋田) |
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