昔、宮崎県の延岡に大武寺(おおたけじ)というお寺があった。
ここの和尚は風変わりで朝晩のお経を唱える事以外は何もせずに昼寝ばかり。その為、お寺や墓地は落ち葉が積もり、荒れ放題だった。
ある秋の夕方、一人の旅の小僧が一夜の宿を求めてきた。疲れている様子を見た和尚は可哀想になって一晩泊めてやることにした。小僧は何処から来たのか、また何処へ行くのか和尚が聞いても答えなかったが、和尚は気にせずに部屋に寝かせてやった。
翌朝、和尚が目を覚ますと庭が綺麗になっている。小僧は何でもするのでここにおいて欲しい。のんびり暮らしたい。というので和尚は承諾した。料理は美味しいし、片道四里(16Km)のお使いも半日足らずで終わらせ、お寺を掃除していくのでみるみるうちにお寺や墓地は見違えるように綺麗になった。そして仕事が終わると小僧は昼寝をするのだが、和尚は妙なことに気がついた。
小僧がテキパキと用事を片付けていく割には「働いている所を見たことがない」のだった。翌朝、小僧より早く起きた和尚は小僧が起きるのを辛抱強く待った。やがて起きた小僧は縁側にどっかりと腰を下ろすとある物を取り出した。
それは「天狗の羽うちわ」。羽うちわで落ち葉を吹き飛ばして庭を綺麗にしていたのだ。小僧の正体は天狗だったのだ。朝ご飯の時に和尚は、なぜ小僧になってこの寺にやってきたのか尋ねると小僧は驚いて箸を落とした。
天狗は修験の日々が嫌になって和尚とのんびり暮らすためにやってきたのだ。小僧は天狗の姿に戻るとお世話になり申したと言って、寺から飛び去っていった。和尚は涙を流しながら何とつまらないことを言ってしまったのか、知らないふりをしていれば二人仲良く暮らせたものを。と後悔し、空に向かっていつまでも手を合わせたのだった。
(投稿者: のんの 投稿日時 2012-4-29 22:25 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 宮崎の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 宮崎の伝説(日本の伝説31),竹崎有斐,角川書店,1979年2年20日,原題「火除けの仏」※三節目、鼻長尊の事 |
場所について | 大武寺 |
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