昔々、北風の吹く山道を一人の男がとぼとぼと歩いておりました。男はお茶売りです。
その日はどうしたものかさっぱり売れず、行ったことのない田舎の方へ足を伸ばしてみることにしました。いつのまにか道に迷ってしまい、風すれの音がする竹藪の中を心細げに進んでいると奥からうぐいすの声が聞こえて来るので足を止め、ふと見てみると、そこには梅の花の脇で梅の香りを楽しむように一人うっとりと美しい娘がたたずんでいました。
男が近づくと、もう一人、また一人と娘たちが四人も現れ、にっこりと男に笑いかけてきます。いつしか娘たちは男の手を取り自分たちの家へと案内しました。そこは男が今まで見たこともない長者屋敷。早速男は商売を始めます。母親と四人の娘たちにお茶、お箸、かんざしを見せると喜んで残らず買い上げてくれました。そして母親は女ばかりの屋敷のこと、男の人が来てくれたら心強いからと娘をもらってくれないかと申し出るのです。男は長女の婿になりました。
男は一夜のうちに長者になり、毎日を夢のように暮らします。季節が巡り女たちがお花見に出掛けたとき、男は留守番をすることになりました。母親が「もし退屈したら家の蔵をご覧になってください。四つのうち最初の三つまでは見ていいが、どんなことがあっても四つ目を見てはいけません」と言い残し、女たちは出掛けていきます。
やはり男は退屈し、蔵を見てみることにしました。一番目の蔵を空けるとどうでしょう、そこは海です。男は夏の海の上を鳥になって飛んでおりました。「これはおもしろい、愉快じゃ愉快じゃ」二番目の蔵は秋の景色。「風流じゃのぅー」三番目の蔵は樹氷が輝く冬の景色。四番目の蔵は見てはいけないと言われていましたがとうとう我慢しきれなくなってしまいました。中は思った通り美しい春の景色。梅の花が咲き匂いうぐいすの啼く声がしました。
男は、その鶯たちの顔をどこかで見たような気がして、はっとしたとたんうぐいすたちは母親と娘たちの姿に戻りました。「あなたは約束を破りました。私たちはここに住むうぐいすだたのです。見られてしまってはもうおしまいです。さようなら」そう母親が言い終わると男はまた元のお茶売りの姿になって、冷たい北風の吹く山の中に一人残されていたそうです。男は竹藪の中の梅の木から、一目散に逃げ帰りました。
(投稿者: みけねけ 投稿日時 2011-10-30 13:04 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | クレジット不明 |
VHS情報 | VHS-BOX第4集(VHS第38巻) |
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