昔、尾張の上半田にはたくさんの造り酒屋があった。
そのうちの1軒に、毎年酒ができる頃になると、できたての酒を飲みに来る「のた坊主」というタヌキがいた。のた坊主とは、酒を飲んで酔っ払って歩く姿が、のたのたしていたためについた名前である。
のた坊主はいつの間にか酒蔵に紛れ込んで、できたての酒をたらふく飲んでしまうのであった。店の主人や使用人はのた坊主が忌々しくてたまらなかったが、主人の母親だけはのた坊主に対して寛容であった。
ある年のこと、今年もうまい酒ができあがった。のた坊主はいつもの男の姿に化けて、できたての酒を飲みに来た。今年はどうしたことか、店の者はみな忙しく働いており、のた坊主が紛れ込んだことにおかまいなしの状態であった。
しかしそれは、店側のわなであった。のた坊主に酒を飲めるだけ飲ませてしまい、酒によって動けなくなったところを捕まえようというものであった。
すっかり酔っ払ってしまったのた坊主は、店の主人につかまってしまった。縄で体を縛られ、涙を流すのた坊主であったが、店の主人も使用人ものた坊主を許そうとはしなかった。
そこへ店の主人の母親がやってきた。のた坊主の縄を解いて放せ、というのである。そんなことをしたら、のた坊主がまた悪さをする、と反対する主人であったが、母親はのた坊主が酒を飲みに来て困るのならば、こちらからのた坊主の住む藪へ、酒を届けれやればよいというのであった。
「のた坊主に酒を届けてやる」という考えは、主人にも使用人にもなかった。のた坊主は縄を解かれて自由になった。そして店の主人はのた坊主の住む藪に、毎年酒を届けてやるようになった。するとこの酒屋はその後、どんどん繁盛していったという。
(投稿者: カケス 投稿日時 2013-9-12 20:03 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 小島勝彦(未来社刊)より |
出典詳細 | 尾張の民話(日本の民話66),小島勝彦,未来社,1978年05月10日,原題「つくり酒屋ののた坊主」,採録地「半田市」,話者「小栗久夫」,採集「沢井君子」 |
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