昔、まわりを深い杉の木立でぐるっと囲まれた小さな村に、国清寺という寺がありました。寺の周りも深い杉の木立が取り巻いており、昼間でも尚暗く、その上その杉木立の中には昔から「天狗の鼻」と呼ばれる、奇妙な形をした岩が祀られていたそうな。
さて、この国清寺にはいたずら者の「一兆さん」という小僧さんがいました。この一兆さんの悪戯には、和尚さんもほとほと手を焼いておられました。
和尚さんがお出かけで不在の時などは、一兆さんは修行もせず、村の子供たちとコマ回しをして遊んでいました。一兆さんのコマは強く、他のコマを弾き飛ばし、みんなのコマを巻き上げてしまうほどでした。
そんな一兆さんでしたが、たった一つだけ怖いことがありました。それは夜に便所に行くことです。今夜も寺の長い長い廊下を思い切って駆けて行き、渡し板を渡って便所に駆け込みました。やっとの思いで用を足して戻ってくると、先ほど渡った廊下の渡し板が落ちて部屋に戻れなくなっていました。
その時、天狗がばたばたっと一兆さんの周りに降り立ったかと思うと、あっというまに一兆さんの体は宙に持ち上げられ、何やら真っ暗い場所に連れさられてしまいました。天狗たちは、いたずら者の一兆さんを天狗に変えようとしました。一兆さんが必死に嫌だと抵抗すると、自分の懐(ふところ)にコマが入っているのに気付きました。
コマ回しなら誰にも負けんと思った一兆さんは、天狗達にコマ回しの勝負を持ちかけました。一兆さんは、天狗たち相手に勝って勝って勝ちまくりました。ことごとく負けた天狗達は負けコマを一兆さんの懐にむりやりねじ込むと、ものすごい笑い声と羽音と共に飛び立っていきました。
気が付いてみるとすっかり夜は明けており、一兆さんの懐の中のコマは、不思議なことにすべてキノコに変わっていました。その夜、国清寺では一兆さんの話に大笑いしながら、みんなでお腹いっぱいキノコを食べたということです。
(投稿者: こかく 投稿日時 2013-7-9 16:17)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岸なみ(未来社刊)より |
出典詳細 | 伊豆の民話(日本の民話04),岸なみ,未来社,1957年11月25日,原題「天狗の独楽」,採録地「吉田」 |
場所について | 一兆さんの国清寺(こくせいじ) |
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