昔、あるところに大きなお寺があって、大勢の小僧さんが修業をしていました。
この中に一人のいたずら小僧がいて、ある時、ほとほと弱りぬいた和尚が、懲らしめのために小僧を寺から追い出すことにしました。和尚は「大木の陰より竹藪の陰こそ良けれ」「座敷の中より縁こそ良けれ」と、小僧に二つの言葉を与えました。
その日のうちに寺を出た小僧が、先へ先へ歩いていると、突然大雨が降ってきました。あわてて大木の下へ身を寄せましたが、和尚の言葉を思い出して竹藪の方へ移動しました。とたんに、ものすごい大きな音がして、雷が大木に落ちてきました。
命拾いした小僧が、また先へ先へと歩き、山の中の村にたどり着きました。日も暮れていたので、化け物が出るという噂の空き寺に泊まることにしました。小僧はふと和尚の言葉を思い出し、空き寺の縁側で寝ることにしました。
夜も更けた頃、何やらの気配で目をさました小僧が寺の中を覗いてみると、腰の細い娘と四角い顔の化け物が話していました。やがて、四角い顔の化け物がいなくなり、また別の丸い顔の化け物が現れました。
丸い顔の化け物がどこかへ行ってしまうと、寺の中にはほそごしの娘だけが一人で見張りを続けていました。そこで小僧は、寺の中へ飛び込んで「お前は何者だ!」と問い詰めました。
娘は「私は手杵(てぎね)の精、四角い顔の化け物は一分銀の精、丸い顔の化け物は一文銭の精」だと答えました。やがて夜が明けると、ほそごしの娘は消えて、あとには使い古しの手杵(てぎね)が転がっていました。
小僧は、村人たちを集めて、寺の蔵に残っていた一分銀と床下の一文銭を掘り出し、手杵を焼いて供養しました。それからの小僧は、和尚のような偉い坊さんになろうと、この寺の住職となりました。
(紅子 2013-9-27 1:18)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 瀬川拓男(角川書店刊)より |
出典詳細 | 妖怪と人間(日本の民話07),瀬川拓男,角川書店,1973年4年20日,原題「ほそごし」,伝承地「中部地方」 |
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