昔、津軽の村はずれに、両親を亡くした幼い娘がたった一人で暮らしていました。娘は毎日毎晩麻糸を紡ぎ、町に売りに行って生活をしていました。
しかし、幼い娘にとって麻は硬すぎて、なかなか上手に紡ぐ事ができません。ある夜、死んだ母親の事を思い出し、寂しくなって思わず「おっかあぁ…」と月に向かって叫びました。
すると強い風が吹く中、どこからか恐ろしい形相の鬼婆が現れました。鬼婆は「泣くワラシはいないか、いたら食ってまうぞ」と娘に言いました。怖くなった娘は家の中へかけ込みましたが、なぜか鬼婆は家の中で座っていました。
鬼婆は、娘の麻糸の束をモリモリと食べ「この麻糸を食ったら、次はお前を食う」と、娘を脅しました。娘が「もう泣かない」と約束すると、鬼婆は先ほど食った麻糸を一本一本お尻から出しはじめました。
鬼婆の尻から出た麻糸は、黄金色に輝きながらふんわりと宙を舞いました。この麻糸はまるで真綿のようなやわらかさで、幼い娘でも上手に紡ぐ事ができました。娘は、鬼婆の尻から出た麻糸のおかげで上手に紡ぐ事ができるようになり、もう決して泣く事はありませんでした。
(紅子 2012-5-17 23:31)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 佐々木達司「西北のむがしコ」より |
出典詳細 | 西北のむがしコ,佐々木達司,文芸協会出版,1960年8月20日,原題「糸をつむぐおにばば」 |
場所について | 陸奥の津軽 |
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