昔ある山奥に、貧乏暮らしの炭焼き夫婦がいました。
亭主の与作は極端に寒がりで、冬がやってくると仕事もままならない程でした。カミさんは仕方なく「これで着物一枚でも買ってきなさい」と、与作に銭を渡して町へ行かせました。
町に行く途中、与作は海でさっそうと舟の櫓(ろ)をこぐ、男たちを見かけました。男たちは寒空の中でもふんどし一丁の裸で、体から湯気をたてながら勇ましく漕いでいました。この様子に感心した与作は、呉服屋ではなく舟大工の店へ行き、長い櫓を買って家に帰りました。
与作はカミさんに櫓を見せて「これさえあれば着物はいらない」と言って、裸になって炭焼き窯の上に飛び乗りました。そして「やっさ、やっさ、えっしんえっしん」と、一心不乱に歌いながら櫓をこぎ海の男たちのマネをし始めました。
あきれたカミさんは、手桶に入った水を与作にぶっかけましたが、与作はまったく気にせず櫓をこぎ続けました。やがて与作の体からは、もうもうと湯気があがりはじめました。楽しそうに櫓をこぎ続ける与作に、カミさんも「体を動かせば寒くなかろう」と笑顔になりました。
それからの与作は、毎日の寒さをぶっ飛ばすように、元気いっぱい働くようになりました。
(紅子 2012-11-17 3:26)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 下野敏見(未来社刊)より |
出典詳細 | 屋久島の民話 第二集(日本の民話38),下野敏見,未来社,1965年02月25日,原題「掛け波やっさ」,採録地「屋久町安房」,話者「安藤大太郎」 |
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