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ごひん様(ごひんさま)

放送回No.0918(0578-B)
放送日1986年12月13日(昭和61年12月13日)
出典寺沢正美(未来社刊)より
クレジット演出:多賀深美 文芸:沖島勲 美術:青木稔 作画:多賀深美
ナレーション市原悦子

魚を一人占めする漁村に起こった火の玉騒動

昔、三河の田原という所にたくさん魚の獲れる村があった。この辺りの海は少し網を入れただけで引き千切れんばかりの魚が獲れたが、海の鳥達が一匹でも奪い取ろうとすると村人は必死に追い払い、この魚は全部自分達の物だと言い張っていた。こうして村人は朝方に海へ出ただけで魚が有り余るほど獲れたので、日の高いうちから夜遅くまで毎日宴を開き騒いでいた。

ある夜の事、宴の最中に空を得体のしれない火の玉が飛び回り始めた。村人は気味悪く漂う火の玉に恐れをなして次々に家の中へ駆け込んだ。火の玉は静まり返った村の家々の上を飛び回ると、最後に暗い夜の空の中へ消えていった。

火の玉が現れてからは次々と不思議な事が起こり、船に積み込めないほど獲れた魚が全部泥に変わったり、突然船の舵が利かなくなって三日三晩海の上を漂流する事もあった。そして火の玉は毎晩のように火の粉をまき散らしながら村の中を飛び回った。こんな事が毎日続くので、村人は皆家に閉じこもり漁にも出なくなってしまった。

それから漁に出なくなって二十日以上が過ぎ、その日は空が久しぶりに晴れ渡り海も静かに凪いでいた。我慢できなくなった村人は火の玉も恐れず沖に船を出してしまう。漁場に着いた村人は久しぶりの漁に何もかも忘れ活気づき、まるで取り憑かれたように魚を獲り始めた。見る見る船は獲れた魚で埋め尽くされ、もう船には魚を積む場所が無くなってきた頃、急に空が暗くなり船の上をあの火の玉が飛び回っていた。

やがて火の玉は帆柱の上にゆっくり降りると姿を現し、それは何百年も年を経た鳥のようだった。「この海で獲れた魚は人間達の物ではなく海に住む鳥達の物でもあり、人間達だけが魚を獲り尽くしてしまうと鳥達が飢え死にしてしまう。」年老いた鳥はそう村人に告げると海に無数の鳥達を呼び寄せた。鳥達は船を取り囲むと一斉に船を襲い村人が獲った魚を咥えては飛び去っていった。

どれくらい時が経ったのか、船の魚はとうとう一匹もいなくなってしまい、村人はあの年老いた鳥が日が沈む西の空めがけて飛んでいくのを見た。海の魚は自分達だけの物ではない、海で暮らす自分達がそれを考えていなかった事を村人は情けなく思い、それを教えるためにあの年老いた鳥は火の玉になって現れたのだと痛感した。

それからの村人は自分達が暮らしていけるだけの魚を獲り、その獲れた中から「これは海の鳥達に」と言って必ず海に置いていったという。そうして年老いたあの不思議な鳥を、火の玉になって現れた事から「御火様」それが訛って「ごひん様」と言うようになり、それ以来、田原の村ではごひん様が現れるような事は決して無かったという。

(投稿者: お伽切草 投稿日時 2012-1-7 18:30 )


地図:三河の田原(地図は適当)

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