昔、ある所に木村惣太夫(きむらそうだゆう)という男がいた。この男、元は武士だったが、城勤めを辞めて女房の両親の土地を切り開き、家と畑を作って百姓仕事をすることにした。
ある夜の事、惣太夫が寝ようとしていると、誰かがが戸をたたいた。「この辺りで嘘を言いふらして回っている者がいるという噂があるが、あんた知っとるか?」惣太夫が、そんな話は聞いていないと答えて戸を開けると、そこには誰もいなかった。
その声の主は それから毎夜毎夜現れ、昼間の百姓仕事で疲れている惣太夫は、さすがに睡眠不足になってしまった。
ある夜、惣太夫は家の外の物陰で隠れて様子をうかがっていた。すると森の方から何やら妙な者がやって来た。惣太夫はすかさずそいつ着物を掴み、刀を抜いて切りかかると、化け物は悲鳴を上げて逃げていった。惣太夫の足元には兎のしっぽがあった。
次の日、惣太夫は村の年寄りを訪ね、これまでのことを話した。年寄りは「近頃、兎が住みそうな木を切ったりはしなかったか」と聞いた。惣太夫は家を建てるために何本か切ったと答えると年寄りは「それよ、兎とて生き物じゃ。恨み重なりゃそんな仕打ちをせんとも限らん。早く森へ行って新しい巣を作ってやりなさい」と言った。
きっと、あの兎には子供でもいたのかと考えた惣太夫は、森へ行くと兎が出てきそうな場所に巣を作ってやった。 そして大きな石で刀を折り「百姓には刀はいらん」と言って刀を捨てた。それから、夜な夜な惣太夫を起こしに来る者はなくなった。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 清酒時男(未来社刊)より |
出典詳細 | 加賀・能登の民話 第一集(日本の民話21),清酒時男,未来社,1959年08月31日,原題「嘘吹き兎」,三州奇談より |
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