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あんばらやみの馬(あんばらやみのうま)

放送回No.0090(0055-A)
放送日1976年10月23日(昭和51年10月23日)
出典岸なみ(未来社刊)より
クレジット演出:漉田実 文芸:漉田実 美術:青木稔 作画:樋口雅一
ナレーション常田富士男
備考湯ヶ島温泉に伝わる民話かも

あらすじ

伊豆の民話(未来社,1957年11月25日)に、同タイトル名のお話があり「このお話かもしれない」ということであらすじを書いてみます。

昔、湯ヶ島の下の宿に平虎という馬方がいて、毎日、四里ばかり離れた吉田へ、荷駄をつけた馬を曳いて暮らしを立てていた。

ある夏の夕暮れ時、嵯峨沢の吊り橋まで帰ってきたときのこと。今まで元気だった馬が急に苦しがり、座り込んでしまった。平虎は「どうした。今日は久しぶりに湯に入れてやるから歩け」と声をかけて励ますと、やっとこさ、馬は苦しみながらも歩きだし、下の宿に荷を下ろすことができた。

平虎は馬をいたわりながら、西平の河原まで連れて行き、牛馬のための温泉で体を洗ってやった。馬は気持ちよさげに尻尾を振っていたが、ふと大きなクシャミを一つさせて、ぶるぶるっと身を震わせた。その時、何か小さいものが馬の鼻から飛び出し、たてがみにぶらーんとぶら下がった。

「ワハハハハ、危なく湯に落ちるところだったわい」
という声に、平虎が何かと見ると、それは黄色いしなびた顔をした小鬼だった。
「さきほどはすまなかった。お前さんの馬がちょうど通りかかったもんで、わけあって、お前さんの馬の腹に入らせてもらった」
「それじゃあ、さっき、わしの馬があんばらを病んだのはお前のせいか。わしのかわいい馬になんてことをしやがる」
「すまないすまない。生きものに優しい親父さんだな。私は牛や馬に憑いている鬼でね。牛や馬を粗末に扱う奴は嫌いじゃ」
「だったら出て行ってくれねぇか。あんばら病まれちゃあ困る」
「それなんだが、私はイタズラが過ぎて鬼神様に叱られてしまい、一年間は外に出られない身の上だ。お前さんの馬の腹を一年ばかり借りて寝て過ごそうと思うがどうだろう。その代わり、私が出て行った後は、お前さんの馬に今の十倍の力を授けてやろうじゃないか。そうすれば、お前さんの馬は疲れなくなり、たくさんの金を稼いでくれる。どうだね」
「牛や馬に子鬼がつくっちゅう話は聞いたことがあるが…」
「今までも親父さんの馬の耳垢を二度三度と取ってやったことはある。いたずらもするが、無事に出産させるのも仕事だし、死ぬ時に玉の緒を切るのも私たちの仕事だ。一年の間だけ、お前さんの馬の腹を借りて寝かしてくれるだけでいいんだ」
「今までにも世話になったことがあるんだなぁ。だったら、貸すとすべぇか」
「よしきた。一年きっかりだ」
小鬼はそういうと、湯につかって大あくびをした馬の口から、するりと腹の中に入っていった。
「そろそろ帰るか。とんだ災難だが、あんばら病んだりしたら勘弁してくれよ。約束だで」
平虎は馬の体を丁寧に拭いてやると、谷川のせせらぎを聞きながら、馬を曳いて帰っていった。

それからの平虎の仕事は大変なものだった。いつものように荷駄を積んで吉田まで往来しても、馬があんばらを病んでうずくまることがしばしば。時おり、小鬼が寝返りを打ったり暴れたりしているのだろうが、腹も以前よりも少し大きくなったようで、鼻息を荒げ提起するようなこともあった。それでも平虎は馬を大事にし、積み荷を減らしたり、荷を軽くしてやりした。そのため、実入りも少なくなり、暮らしも苦しくなっていった。

そんなある日、帰り道をとぼとぼと歩いていると、ふいに大岩の切通しの所で馬が苦しみだし、前足を着いて倒れた。平虎は、またあんばらやみかと、心配してかがみこむと、馬は突然に大きなクシャミを一つした。そのクシャミと一緒に飛び出してきたのは、一年前に見た小鬼だった。

「やぁ、親爺さん。今夜が約束の一年目だ。私は出ていくとするよ。長い間、お前さんにも馬にも迷惑をかけたからな。約束通り、前の十倍の力を授けてやった。荷駄を運ぶことにかけちゃあ天下一。今からはあんばらやみの馬じゃない。天下一の荷駄馬じゃ、そしてお前さんは天下一の馬方じゃ。ワハハハハハ」そういうと、小鬼は大岩の切通しを嬉しそうにピョンピョンと跳ねていった。

平虎はやれやれと溜息をつくと、「天下一の荷駄馬じゃとよ。天下一の馬方じゃとよ。あんばらやみで大変な思いしたが、それも今日限りだ。とっとと帰るべぇよ」
馬はその言葉に歩き始めたが、その足の速いこと速いこと。平虎は追いつかず「待ってくれぇ」と言いながら、後を追いかけ慌てて背中に飛び乗った。

それからというもの、平虎の馬は疲れを知らず、日に何十里もの道のりを行き来したが、どの馬よりも速いので、急ぎの荷駄は平虎の独り占めとなった。
「一体どうしたんだ。あんばらやみの馬だったのになぁ」
「平虎は馬で身上をこさえたなや」
人々は、街道を突っ走る平虎の馬を見て口々に噂した。平虎は馬のおかげで豊かな暮らしを愉しむことができたとさ。

(投稿者: araya 投稿日時 2011-11-18 22:56 )


地図:湯ヶ島温泉(地図は適当)

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